柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter | もう既にそれは恒例だった。だから、誰も疑わないといってもいい。 勿論、多少は呆れやからかいはある。揶揄もあった。が、それらマイナス的要素ではなく、容認した上での、包括的なものだ。決して否定的なものではない。 だから、それに変化が訪れる事は誰も想像はしない。 当然、響也とて思わなかった。 目の前の成歩堂が不思議そうに首を傾げる様を見て、溜め息より先に、顔が青くなりはしないか、そんなことが気にかかる。 まさかそんな風になっているなんて、誰が思うだろうか。 …………目の前の人に罪は無い。 けれど、同じように自分にも罪は無いと思いたい。深く吸い込んだ息を腹に収め、響也はにっこりと微笑むと、成歩堂に提案をした。 事の初めは他愛もない日の話だった。 始まりというのは、あるいは正しくないかも知れない。けれど、確かにこの日、もしもたった一言が加わっていたならば、少なくとも後日響也が苦労をすることはなかったはずだ。 その日も店の定休日で、成歩堂はミツルギの散歩がてら立ち寄った店内でせっせと新作スイーツの試作をしていた。 いつもと変わらない、定休日の光景だ。休みであってもやることは山ほどある。暇だからという至極単純な理由で成歩堂は店にやって来ては、製菓の練習と称して在庫を増やしていった。 その隣には、やはりいつも通り御剣がいた。彼もまた、この店で働き始めるようになってからは大抵いつも成歩堂とともに定休日はここで過ごしている。 圧倒的なまでに不器用な御剣の練習を見ているというのが、二人が暗黙の内に定休日に会っている名目だ。が、それは確かに事実であっても、周囲から見れば成歩堂に会えないのが寂しくて御剣が懐いているようにしか見えない。 もっとも、本質がそうであったとしても、彼らにはどちらにも自覚が無いのだから、純粋に二人にとっては練習を行う日でしかないだろう。もちろん、友人同士のコミュニケーションを交わす日でもあるのだろうけれど。 必死な様子で無言のまま、御剣が難しい顔をしながらホイップクリームの絞りの練習をしている。おそらく言葉を発する余裕は無いのだろう。まさに一心不乱といった様子だった。 ぎこちない手つきと真っ直ぐにもなっていないクリームの線が、いくら回数を重ねても彼の製菓技術がまったく向上していないように見せた。 しかしこれでも、途中で生クリームの線が途切れなくなったのだ。それだけでも充分進歩だろうと、難しい顔をしている友人を盗み見ながら成歩堂は笑んでいた。 定休日の度、一緒に練習をしている二人だが、なにも毎回成歩堂が御剣に手解きをしているわけでもない。このような自主練習もあるし、時には成歩堂の手伝いで計量や足りない材料の買い出しにいく事もある。 足を引っ張るだけではなく役に立ちたいという意志のある御剣が納得出来るようにと配慮した練習習慣だが、存外互いに上手く循環して成り立っているらしく、お互いの癖や所要時間も何とはなしに把握出来てきた。 そんな、季節が秋に変わりかけた頃、不意に成歩堂が御剣に声をかけた。 「あ、そうだ、御剣」 「ム?」 突然の声に集中が途切れ、御剣の手の中の生クリームは不格好なまま途切れて崩れた。 それにも気づかず、御剣はその声の主へと視線を向け、言葉の続きを待っている。 「来週なんだけどね、僕、用事があって店に来れないからさ。キッチン使うのは全然構わないから、鍵、渡しておこうか?」 火の元さえ注意してくれれば御剣が一人で練習する事に異存はないのだ。自分の都合に合わせなくてもいいと配慮してくれているらしい成歩堂の言葉に、御剣は困惑するように眉を寄せる。 あまりにも突然過ぎて、などという理由ではなかった。 製菓は、正直なことを言えばまったく上達出来ていない。一人でなにが出来るかと言えば、精々計量が出来るくらいだ。 誰かがついてくれなければ、まともな菓子が出来上がる事は無い。それは考えるまでもなく御剣自身解りきっている事だった。それ故に、当然、成歩堂への回答は1つしかない。 それでも返答に若干の間があいたのは、それとは別の理由があった。 特別趣味も無く、製菓に関係する用事であれば自分にも声をかけてくれるはずの成歩堂が、ただ『用事がある』というだけでその用件を明確に言わなかった事が、引っかかった。………のかも知れない。 正確には御剣自身にも解らなかった。ただ、もやもやとするものがある。 成歩堂はいつも店にいて、休みの日でも顔を覗かせる。定休日はこうしていつも自分の練習を見てくれるし、その技術を教えてくれる。会えないのは、精々週に一日、それも自分がここに赴けば、顔だけは見る事が出来た。 それはそのまま、成歩堂に自由な時間が少ない事も意味していて、それは気がかりな事だった。だから、彼が自由に振る舞える時間があるというならば、喜ばしいことなはずだった。 それなのに、何故か引っかかる。その正体は解らないけれど、ざわざわとする。御剣は首を傾げてその正体を探ろうかと思うが、それより先に、成歩堂が声をかけてきた。 「?どうかした?」 「ム、いや、私は一人ではなにも作れない。から、ここではなく、家で練習した方がいいのではないだろうか」 まだ成歩堂の言葉になにも返答を返していない事に思い当たり、即座に思いついた言葉を口にした。感情論や情緒の機微には疎いが、事実関係を整理し伝える事であれば、御剣は正確に、しかもその他の関係性に比べあっさりと行える。そういった点では元弁護士である手腕は疑いようも無い。 そんな事を思いながら、一度 それに気に病む必要の無い事を伝え、御剣は胸中の有耶無耶なものに蓋をする。取り合えず、今は目の前の友人が自分に笑いかけてくれる。 その事実さえあれば、そんな疼きはあっさりと消えた。………それがあまり深くその因を探らせない原因でもあるが、多分、どちらのためにもそれはそれで正しい反応なのかも知れない。 そうして、翌週、火曜日。パティスリーCHIHIROの定休日がやって来た。 普段であれば飼い犬であるミツルギとの散歩がてら、店へと休憩と製菓の練習とを兼ねて立ち寄っていくのだが、今日は違った。 1時間ほどののんびりとした散歩は、そのまま自宅へと帰ってくるコースだった。 勿論それを知っているミツルギは、思う存分飼い主とだけ一緒にいられる時間を堪能していた。最近では定休日には邪魔者が張り付いていることが当たり前で、なかなかお互いだけという時間がない。 勿論、他のどんなものよりも二人で過ごす時間があるのだから、それとて大目に見てはいる。だが、だからといって、楽しいわけはなかった。………相手が自分同様に、飼い主のことを思っているのならば、尚更だ。 散歩から帰って来て足を拭ってもらい、ミツルギは室内に入り込む。その隣を歩む成歩堂に尻尾を振ってじゃれるように首をすり寄せた。 もっと触れたいと、触れて欲しいと願って寄せた首を成歩堂は見下ろし、手にしていたタオルを犬用の洗濯カゴに放り投げながら首を傾げた。 「うん?危ないよ?水、かな??」 時折鈍い彼は、ボディータッチを求めて懐くことに気づかない。それでも精一杯愛情を寄せてくれて、自分のことを考えてくれているから、多少の勘違いは目を瞑っていた。勿論、散歩から帰ったばかりで喉が乾いていることも事実なのだけれど。 同じ歩調で室内を歩み、成歩堂がキッチンに入るのを少し離れた場所で待つ。CHIHIROでも家でも、ミツルギはキッチンの中には入らない。火や刃物を扱う場所では、少し飼い主にじゃれるだけでも彼に怪我を負わせる危険があることを、ちゃんと知っているのだ。 彼を傷つけるのは、たとえそれが自分自身でも許せない。可能であるなら、どんな痛みからだって守りたいのだ。 彼は、痛みすら受け入れて強さに変えられるから、尚更だ。その痛みを誰にも与えようとしないから。………乗り越えるその時すら、一人立ち向かおうと隠し込んでしまう。 もう二度と、憔悴しきった姿で、それでも微笑む彼など見たくはない。 出来得る限り傍に居て、出来得る限り守ってみせる。幼かった頃の誓いは変わることなく今も根付いていた。 だからこそ、この空間にミツルギは入らない。寂しいけれど、自分自身で立てた誓約だ。 「お待たせ、ミツルギ。……ちょっと僕、準備してくるね」 器を持ったまま飼い犬の頭を撫で、定位置にある防水加工の布の上にそれを置き、擦り寄る飼い犬がそちらに目を向けるのを眺めながら声を添えた。 もとより理解しているらしいミツルギは小さく頷いて水を飲み始める。その姿を少しだけ眺めた後、成歩堂は自室へと向かった。 今日は出掛ける予定があるのだ。そのために先週、製菓の練習に来れないことを御剣にも告げた。とても久しぶりな、趣味の時間だ。 着替えをしながら荷物を確認する。持っていくお土産はウイークエンドとクッキー。それにマフィン。量も多い。これから行く場所にはそれなりの歳の男が多数集まるし、他にも手伝いできているスタッフもいる。それらを考慮すれば妥当な量だろう。 紙袋の中身を見ながらそんなことを思い、上着を羽織った。 「………本当は、ミツルギも行ければいいんだけどなぁ」 ぽつりと、紙袋に手を伸ばしながら呟く。それが不可能なことは解っているのだ。そもそも、彼の体躯を考えたなら、電車に乗れない。かといってペットタクシーを頼むことも難しかった。 まだ成歩堂が一緒にいられればいいのだろうが、ミツルギは一人で車に乗せられることを嫌う。車に怯えるのではなく、そのまま引き離されるのではないかという恐怖を思わせる、ひどく寂しい沈鬱とした鳴き声と姿で鎮座するのだ。 あれを目の前にしては、手を振れない。いっそドナドナが聞こえないのが不思議だと揶揄したのは、神乃木か霧人か、どちらであっただろうか。 それならば成歩堂が一緒に車に乗ればいいと言えば、それはその通りだが、それにも避けたい理由があった。 …………成歩堂は、車が苦手だった。小さい頃からではなく、ここ数年で、だ。 敬愛していた師である千尋が子供を庇って車に轢かれたことを、どうしても思い出してしまう。情けないと思ってはいるけれど、彼女は自分の人生に多大な影響を与えた人だ。そう容易く整理しきることが出来なかった。 おかげで車通勤の友人である御剣に乗車を勧められても頷けない。案外気にする質の彼を、嫌われたと落ち込まないように断ることもなかなか大変なことだった。 いまの所酔いやすいからという理由に納得はしてくれているし、実際、症状としてはそれに近い。だからこそ、泊まりで出掛けなくてはいけない日などは、多少無理をしてでも車で飼い犬とともに移動することにしているのだ。 乗れないわけではなく、乗ることで精神的に圧迫を受けるだけなのだから、結局は自分自身の弱さだとも思う。 初めはそんなことはないと思っていたのだが、店を再開させた当初、神乃木の車で移動をしたとき、堪え切れなくて途中でダウンしてしまった。以来、すっかり古参のスタッフたちには既知の事実で、車による移動を提案されることは無くなった。精々、慰安旅行くらいだろうか。これも飼い犬に甘い自分が困り果てるからという気配りであることくらい、解っている。 そんな実情を話せば、御剣はきっと車で通勤していることすら、後ろめたく思ってしまうだろう。情の深い人だから、悲しませたり苦しめたりしているのではないかと、不安に思うかも知れない。 だから、大丈夫だと、笑いたい。いずれまた、車に乗ることも平気になれるかも知れない。逃げるだけではダメなことは、解っているのだ。 いま暫くは乗車を忌避してしまうけれど、前進したいとは思っている。それをきっと、今はいないあの美しい女性も願ってくれているだろう。 軽い溜め息でそんなことを思っていると、不意に背後のドアが開く音がする。中途半端に開けられていたドアから、水を飲み終えた飼い犬が入り込んだらしい。 振り返った先には思った通り、こちらに歩み寄るミツルギがいた。賢い飼い犬は、今日は留守番をしなくてはいけないことをきちんと知っている。 見上げてくる眼差しが、少しだけ寂しそうに見えて、成歩堂はそれに笑いかけながら、そっと手を伸ばした。 本当は離れたくなどないのだと、この犬は全身で教えてくれる。それは、自分が一人ではないことを教えてくれる、動物の優しい意志だ。 口の周りが水に濡れている。指先でそれを擦りながら、手近にあるハンカチで軽く拭ってやった。 「…………ちゃんと車、乗れるように頑張るからね」 いまはまだ、プライベートでは震えてしまうけれど。それでもなんとか、慰安旅行の車移動は堪えられるようになったのだ。 いつか一緒に色々な所に行こうと、祈りとともに成歩堂は飼い犬の身体を抱き締めた。 それに小さく鳴いてミツルギは擦り寄る。そんな飼い主の痛ましい努力をいたわるように。 …………別に、いいのだ。彼が無理をしなくても。 自分は彼が傍にいればそれだけでいい。どこかに行きたいとも思わない。広い草原も、夏に行くスタッフの慰安旅行のキャンプ場も、確かに楽しいし本能として高揚もするけれど。 この人が傍に居なければ、なんの意味もないのだ。 辛い思いなどしないで欲しいし、悲しむなど言語道断だ。彼にそんな思いをさせるくらいなら、自分が我慢した方が余程マシだ。 優しい飼い主の腕に包まれながら、ミツルギはそのまま続けられるだろう暫しの別離の言葉を待った。 少しの沈黙。ぎゅっと強くなった抱擁の腕。………小さな声が、耳に触れた。 「………ねえミツルギ、ペットホテルじゃなくて…本当にいいの?」 いまから出掛ける成歩堂は、その先にミツルギを連れてはいけない。当然、ミツルギは一人で彼を待たなくてはいけないのだ。 普通であればペットホテルや動物保育所などに連れて行き、一時的に預かってもらうものだが、ミツルギは頑としてそれをいつも拒む。 ことあるごとに勧めてみたり、時にはその場所に連れて行ったりもするが、置いていかれそうな気配を感じると引き離される前にその場から退去してしまう。…………頭がいいというのもこんな時は困り者だと、パティスリーのスタッフたちは一様に溜め息を吐いていっていた。 それでもミツルギは聞き分けがいいし、大人しいのだ。家で待つとごねることをしても、決して留守番の間に部屋で悪さをすることはない。 だからこそ成歩堂も強制的に預けるような真似も出来ず、いつもミツルギに確認しては部屋に残るというジェスチャーに困ったような顔をするばかりだ。 本当は、保育所でもホテルでもいいから、そういった場所でミツルギにも多くの犬たちと関わってもらいたい。あまり他の犬たちと交流しないからこそ、余計に。 「ミツルギ?」 問う声には、振られる首。ここがいいのだと、飼い主に擦り寄るばかりで頷くことはない。 成歩堂がいないのは、寂しい。だから、保育所もホテルも嫌なのだ。 せめて彼の匂いの残るこの家で、彼を思い踞っていなければ、迫り来る寂寞には堪えられない。…………もしも仮にどこかに預けられるとして、そんな時に不要に関わってくる輩がいたなら、ミツルギにはその相手に牙を向けないだけの自信もなかった。 彼がいい。成歩堂だけがいい。その彼がいないのに、他のものが関わるなんて、そんな不条理なことは受け入れられない。 けれどそれが現実となった時、一番傷つき辛い思いをするのは、誰よりも愛しいこの飼い主であることもまた、解っている。 ………だから、ここにいる。 自分のためにも、たった一人の愛しい人のためにも。それが一番いいのだと、ミツルギは知っているから。 「………わかったよ。じゃあ、水とお菓子だけ、置いていくからね?」 オモチャも好きに使っていいからとその背を撫でながら、根負けした成歩堂が微かな溜め息とともに告げた。 小さな鳴き声でそれに同意を示し、ミツルギは少しだけ寂しげな飼い主の目元を慰めるように舐めとる。 彼は知らなくていいことが、ある。 ………知らないまま、覆い隠し続けたいことが、ある。 きっと人間には解ることの出来ない、この思い。たった一人以外に自分の存在を与える意志のない、飼い主だけがこの世に唯一の存在である、思い。 解ることは、ない。…………ない、けれど。 それでも彼は心を尽くし、思ってくれる。蔑ろにすることなく、心寄せて腕を伸ばし、忘れることなくパートナーとして寄り添ってくれるから。 生涯ただ一人の伴侶の憂いを溶かすように、ただ幸せそうに笑んで、ミツルギは尻尾を振るとその頬に鼻先を押し付け慰めた。 「出来るだけ早く帰ってくるからね。いい子にしているんだよ?」 じゃれつくミツルギを抱きとめながら、決して伝わりきることのない思いに包まれて、成歩堂は笑った。 ちょうどそれは、休憩時間だった。元々その予定で話をしていたし、最寄り駅からもいまから向かうという旨のメールも受け取っていた。 だからこそメンバーたちにもそれを伝えたし、彼らも成歩堂がやってくることを喜んでいた。人当たりの良さもさることながら、成歩堂はいつの間にか場に溶け込める不思議な性質がある。更に付け加えるならば、彼がいつも持って来てくれるお手製の菓子も、彼らには楽しみの一つだった。 そんな成歩堂が、尋ねて来た。時間通りに、いつものように大きな紙袋を携えて。 …………正午も回り昼食を食べ終えた響也の前に、成歩堂はいつものように笑ってたたずんでいた。若干訝し気な響也の様子に成歩堂は少しだけ首を傾げてキョトンとしている。 それに苦笑を差し出しながら、響也は改めて辺りを窺った。成歩堂の手にはいつも来てくれるときの恒例の差し入れが入った袋がある。ドアにいる自分たちを窺うようなメンバーたちは、入ってこない成歩堂は勿論、この袋の中身も気になるようだ。 そんな事を考えながら、響也はちらりと周囲を見回し耳を澄ませた。が、ただ成歩堂一人がたたずんでいるばかりで、他の人影も足音もしはしなかった。 それに今度は響也が首を傾げながら、とりあえずと成歩堂が差し出した袋を礼を言って受け取った。いつまでもここで無言のまま立ち尽くすのもおかしな話だ。取り合えず話を聞こうと思い、響也は手にした紙袋を掲げて、後ろで自分たちを気にしているメンバーに指し示す。 その仕草を見て取った大庵が、すぐに理解したように颯爽と歩み寄った。勘がよくて助かるとアイコンタクトを交わしながら、響也は紙袋を大庵に渡した。 紙袋を掴みながら大庵は、いつもと変わらず礼を口にしたあと、軽口で成歩堂と少しだけ言葉を交わし、すぐに邪魔にならないように他のメンバーの元に戻っていく。中に入ろうとしない響也の意図をちゃんと読み取ったらしい。 その後ろ姿を苦笑で見送りながら、響也は室内の時計を見遣った。………まだ休憩時間に余裕がある。それならばと考えて、改めて成歩堂に向き直った。 相変わらずの屈託の無い笑みを讃えて、少しはしゃいだ雰囲気の成歩堂は小さく首を傾げて響也の態度に問いかけを送っていた。 それに響也は小さく苦笑する。疑問を向けるべきは、おそらく自分の方なはずなのだから。 そう思いながら、場所を変えようと、響也はドアから身体を滑らせて廊下に出ると、会場を案内すると言いながら成歩堂を誘導した。 響也の言葉に嬉しそうに頷き、成歩堂は疑いも無くついていく。手荷物は邪魔だろうと思い、響也は手を差し出して鞄を受け取り、ドアから室内に顔を覗かせる。すぐに気づいた大庵が心得たようにまたドアまで歩み寄って、成歩堂の鞄を受け取った。 ドアの奥から成歩堂が礼を言うのに笑んで答え、二人が今日の舞台を見学に行くのを見送って、大庵はようやく控え室のドアを閉めた。そうして大股でメンバーの輪に舞い戻る。………隙を見せるといつの間にか自分の分の差し入れまで食べられてしまう。なんの言伝もなく立ち去った響也には御愁傷様と心中で思いつつ、成歩堂お手製のウィークエンドを一切れ、頬張った。 ここは、都内のライブハウスだった。響也が所属しているガリューウエーブという素性不明を謳っている覆面バンドが、今日の夜ライブを開くのだ。 大抵、響也は店の事を考慮して、定休日にライブを開く事が多い。そのせいもあり、響也たちのバンドの知名度が低いかと言われれば、否だ。 口コミで広がり、ファンは増えるばかり。数枚出しているCDの売り上げもインディーズとは思えない枚数に上っている。それらは決して響也たちの秀麗な外見に惹かれてではなく、純粋に実力によるものだ。なにせ、顔の大部分を隠しているのだから、彼らの整った顔立ちを求めてファンがやってくる理由が無かった。 そして成歩堂は時折響也のバンドを見学に来ていた。元々ロックが好きだったせいもあり、響也がバンド活動をしている事を反対するどころか、奨励するほどだ。時々渋い顔をする霧人から庇ってくれもする。 大抵来るのはリハーサルを行う昼間で、実際のライブは精々一曲か二曲聞く程度で帰ってしまう。スタッフとして動くにも要領が解らず邪魔だし、かといって客として入るには忍びないほどの人数が詰めかけているので、メンバーたちが勧めても成歩堂は固辞していた。 だからこそ、こうして昼日中に来て、メンバーたちがじゃれ合うように掛け合いの声を交わしながらリハーサルを見るのが、成歩堂は好きだった。 差し入れも迷惑をかけるお詫びに近いが、気持ちいい程よく食べてくれる彼らの食べっぷりは見ていて清々しい。 今頃は控え室で騒ぎながらも差し入れを食べてくれているだろう。その様子が見れないのは少し残念だけれど、今日の会場を案内してもらえるのは楽しかった。 いくら好きだといっても、舞台裏まで知る事はなかなか出来ない。好きな事への好奇心は誰よりも強い成歩堂を見抜いている響也は、ことあるごとにこうして自分のテリトリーを教えてくれていた。 「そういえば、成歩堂さん」 舞台を案内しながら、不意に思いついたようにして響也が声を掛ける。 それに周囲を見回して動き回っていた成歩堂が振り返り、首を傾げた。まるで年下……悪く言えば子供のようなその様子に、笑みが零れる。 普段は出来得る限りしっかりしようと、神乃木を見習い余裕を持って動く彼だけれど、こと趣味の範疇になるとまるで違った。 ようは、とても無邪気なのだ。 おそらくはそれが本質なのだろうけれど、それと同じくらい、責任感も強いのだろう。普段の彼は人を甘やかすことはあっても、自分自身には厳しい人だ。 「いえ、今日は御剣さんはどうかしたんですか?」 てっきり一緒だとばかり思っていたと、彼が尋ねたその時からの疑問を響也はようやく口に出来た。 その言葉に成歩堂はまた首を傾げた。何故そんな話が出るのだろうかという様子に、ひやりと背中に汗が浮かんだ。 「御剣なら、多分……家だと思うけど。何か用があったのかな??」 まったく質問の意図が伝わっていない様子に息を飲む。………まさかとは思うが、成歩堂がいまここにいることを、御剣は知らないのだろうか。 冷や汗が流れそうな心持ちで、取り合えず一つずつ確認していこうと、響也が成歩堂を見遣ると、音響の機械を覗きこんでいる背中が見えた。 その背に、努めて平静を装い、声を掛ける。 「えっと、成歩堂さん。御剣さんは来ないんですか?」 「え?来ないというか……知らないと思うけど」 「……………言っていないんですか?」 今日ここに来ることをと、叫びそうな気持ちを飲み込んで静かに問いかけると、コードを器用に踏み越えながら歩む成歩堂は首を振った。 「ううん、いったよ。今日は用があるから店に来れないんだって。で、キッチン使うかって聞いたら、家で練習するっていっていたから、多分家にいると思うよ?」 御剣に用があるなら携帯に電話した方がいいかもしれない。そんな的外れな言葉で締めくくられた内容に、響也は本格的に頭痛がしてきた。 用はない。更に言わせてもらえれば、きっと御剣はロックバンドになど興味はないだろう。それでも成歩堂が興味を持つ場所に興味を示さないかと言えば、きっと否だ。 そしておそらくは今頃、成歩堂の用事がなんであったかを気にして普段以上に挙動不審に違いない。後日今日のことが耳に入った際、本人も無自覚の悋気を向けられるのも、正直困る。 なにかこの状況の解決策はないものか。面白そうに照明を触っている成歩堂を眺めながら、響也は軽く頭を抱えていた。 首を傾げながら、息子を見つめる。目を瞬かせて、少しだけ待ったあと、ようやく声をかけた。 「あのね、レイジ?」 「……っな、なんだろうか?」 「殻は取ってから混ぜた方が、いいと思うわ?」 いつもそうしているのにと、不思議そうに母親は首を傾げて息子の腕の中にあるボールを指差した。 指摘されたことにギョッとして、慌てて御剣は腕の中を見遣る。………確かにパッと見ただけでいくつか真っ白な殻が浮いていた。 卵を割れば殻を粉砕してしまうのはいつもの事で、必ず解きほぐす際にはボールの中の殻を取り除くというのに、今日はすっかりその作業を忘れていたらしい。 手にしていたホイッパーをテーブルに置き、黙々とボールの中から殻を取り除いていく。細かいものも多く、ぬるぬるとした白身のせいで取り除くのは骨だ。 せめて殻をダメにせずに卵を割れるようになりたいものだと、パティスリーで働くものとは思えないことを考えながら、小さく息を吐く。 その背中を見ながら、母親は頬に手を当てて目を瞬かせた。全くもって、覇気がないのだ、今日の息子は。 いつもであれば家で母親が作る菓子の手伝いをしてくれる際も、もっとテキパキしている。 一度教えたことは大抵覚えてしまうから、一緒に作った菓子の手順はすぐに飲み込んでしまうのだ。自分が次に必要だと思うものを、言う前に用意してくれるしセッティングも完璧だ。 だというのに、マドレーヌという、それこそ子供の頃から何十回と作っているものを、卵の殻を取り除くという、何百回やったか解らない作業から間違うなど、そうはないことだ。 具合が悪いのだろうかと様子を見るが、別段体調に問題はなさそうなのだ。食事もきちんと食べていたし、動きも無理をしていない。いつもの通りの表情の少なさも、決して険しくはない。 敢えていうならば、それは。 「……もしかして、レイジ………寂しいの?」 同時に、ガシャンと、ボールがテーブルに落ちた音がした。傾かなかったらしく、なんとか中身の卵は無事だ。 それを確認しながらちらりと愛息子を見上げれば、呆然とした顔をしていた。 おそらく、自覚がなかったのだろう。母親の言葉を反芻して、それが正しいと解ってくると、目に見えてしゅんと項垂れた。 まるで子犬のようだと母親が苦笑して、自分よりもずっと逞しく広い息子の背中を叩く。 「いつも一緒だったものね。寂しくて当たり前よ」 「…………そういうものなのだろうか」 「だって、お父さんやあなたがいない時間は、やっぱり張り合いがないもの」 一緒にいることが当たり前の人の不在は、どれほど強がってもやはり寂しいものだ。優しく笑って教える母親を見遣りながら、御剣は情けなさそうに眉を垂らす。 もし、それが事実であるなら、この母親はいま自分が感じているような思いを今までどれほど感じていたのだろうか。 自分たちに仕事や学校があれば、専業主婦である彼女はこの家にただ一人だ。幼い頃であれば地域の同年代の親たちとの関わりがあったかも知れないが、今はどうなのだろう。御剣は知らない領域だ。 どれほど長い間、この家に一人なのか。………自分は、成歩堂と会えなくとも、この家に一人取り残されることはなかった。いつだって、この母親が迎えてくれたし、見送ってくれた。 思っていることが伝わったのか、ひどく嬉しそうに母親は笑い、息子の顔を覗き込みながらトンと、先程盛大な音を奏でたボールを突ついた。 「出来上がったら、成歩堂くんにメール、送りましょうよ。写メに撮って、二人で作ったのって、教えてあげましょ?」 そうしたなら、きっとあの青年は喜んでくれるだろう。とても真っ直ぐに好意を讃えられる子だから、読んで終わりということもないだろう。反応が返ってくれば、会えなくて項垂れているこの背中も、少しは元気を取り戻すかも知れない。 「……う、ム。そうしよう。家にいるなら、持っていってもいいかも知れない」 ふムと頷き、既にメールではなく実物を持っていこうと画策し始めている息子の切り替えの早さに苦笑する。それでもやはり、可愛い子供の落ち込む姿よりは楽しげな様子の方がいい。 あとで自分の方からも成歩堂に断りのメールを入れておこうと思いながら、おそらく自分や父親までもが成歩堂のアドレスを知っているとは思っていないだろう息子に、少しだけ悪戯心を滲ませて笑いかけ、マドレーヌの作業に戻った。 一通り機材や舞台裏を見て回った成歩堂は満足したのかとても嬉しそうな顔をしていた。 機嫌よく鼻歌を歌いながら前を歩く彼を見遣りながら、本番前でも感じない頭痛を抱えて響也は付いていく。 あまり込み入っていない廊下だったせいか、迷うことなく成歩堂は進んでいった。そのまま控え室の前に辿り着き、後ろに続く響也を見遣る。 ………珍しく、眉間に皺を寄せている。それは自分の友人によく見られるもので、響也には珍しい。首を傾げて相手の顔を覗くように少しだけ屈むと、考え事をしていたのか、驚いたように響也が目を丸めて姿勢を正した。 「響也くん、眉間に皺、寄ってたよ?」 いい男が台無しだとからかえば、響也の唇に苦笑が浮かぶ。 ドアに手をかけてそれを開けながら、響也は自分の後ろに回った成歩堂を振り返りつつ、声を返した。 「ちょっと考え事ですよ。なんとかなるといいと………」 「お、やっと帰って来たな、成歩堂さん!携帯鳴っていたぜ?」 正確には鞄が震えていた。そう大庵がドアの先に響也を見ると同時に声を張り上げた。 まだ成歩堂の顔は見えてもいないというのに気の早いことだと、呆れながら響也が大庵を見てみれば、既に立ち上がって歩み寄っていた彼の手には成歩堂の鞄があった。 その鞄を差し出しながら、大庵が成歩堂に笑いかける。見た目は強面だが、もう既に見知った仲の成歩堂は少々凄みのあるその笑みもたいして気にした風もなく笑い返した。 考えてみれば初めて紹介した時からそんな感じだったと思い返し、大庵の上手をいく人物が店には常時いることを思い、響也は少しだけ面白味を感じてしまう。 「菓子美味かったぜ。ごっそーさん」 「ん、ありがとう。量は足りた?」 礼を言って鞄を受け取った成歩堂が、そのまま中を漁り始める。おそらく整理整頓がなっていないのだろう。どこにあるのかと肘まで腕を入れて隅から隅まで探っていた。 そんな成歩堂の仕草を茶化した後、大庵はちらりと傍らの響也を見遣った。何となく、それだけで響也には嫌な予感がする。 「んー………まあ、こいつの分は無しってことで、許せ?」 「って大庵!君、ぼくの分も食べたのか?」 やっぱり想像通りだと問いただせば、まったく悪びれるでもなく大庵が肩を竦めて背後のメンバーたちを顎でしゃくって示した。 「俺だけじゃねぇーって。他のメンバーとみんなで、だ」 さも心外そうにいうが、人数が増えただけで響也の言い分に対しての反論にはなっていない。 なってはいないが、これ以上いっても無駄だろうことは響也も解っていた。恨みがましく見遣りながら、それでも一言文句を付け加えた。 「結果は同じだろ!ぼくだって食べたかったのに」 「ハハ、響也くんには今度またプレゼントするよ。どうせいつも会っているんだし、ね?」 たまにあるこの光景に成歩堂は笑って終止符を打った。作ったものを喜んで食べてもらえるのは、嬉しいことだ。この場所でだけ見られる、拗ねるような響也の仕草も気に入っている。 フォロー体質なせいか、霧人の弟という立場のせいか、響也はそつなく色々なことをこなすし、仕事場ではあまり感情的でもない。どちらかというと穏やかなタイプだ。 趣味の場所ではそうした面の他に、子供のような我が侭や拘り、引くことのない頑固さも見られる。仕事場では決して解らない、響也の別の側面だ。 神乃木は出会った初期の頃に落ち込んで動けない際、随分世話になってプライベートでも大差ない姿を見ているし、霧人とは学生としての関わりの中で色々な側面を感じ取っていた。新しいスタッフの中で、響也だけは本当にまったく知らない人だったけれど、彼の趣味が自分にも解るもので良かったとこうして足を運ぶ度に思った。 「…………あれぇ?」 そんなことを思いながらようやく探し当てた携帯電話の画面を見て、成歩堂が首を傾げる。 子供のように睨み合っていた響也と大庵がその声に気づいて視線を成歩堂に向けた。不思議そうに目を瞬かせて携帯を操作している成歩堂は、ようやく画面を読み取ったのか、また首を傾げていた。 「…………?どうかしたんですか?」 「なんだ、迷惑メールか?」 「いや、御剣のお母さんから、なんだけど…………」 何故母親から。 けったいな成歩堂の返答に、大庵が言いそうな言葉が想像がついて、彼が口を開けるより早く響也が脇腹を肘で突ついて発言を飲み込ませる。 事情は解らないが込み入っているのだろうと当たりを付けた大庵が、ギターのチューニングをしてくるといってその場を後にした。もっとも、同じ室内にいるのだから、聞こうと思えば会話は聞き取れるのだけれど。 取り合えず今はメンバーの疑問解消よりも、目の前の難題解決が先決だ。そう考えて響也は戸惑っているらしい成歩堂に声をかけた。 「御剣さんの?御剣さん……どうかされたんですか?」 まさか怪我とか、と一瞬考えて、そうであった場合、おそらくあの人はバレると解っていても隠そうとするだろうと結論づける。結果的に成歩堂が余計に心配したり悲しんだりしたとしても、御剣は自分自身のことで成歩堂を煩わせようとはしない。…………無意識の場合は別として。 その考えがあっていたのか、たまたまなのかは解らないが、成歩堂は首を振って響也の推測を否定した。 そして携帯画面を見えるように響也に向けて、首を傾げる。 「なんか………どうしたんだろ?」 「えっと………………。………………………」 なんだろうかと読んでみて、響也は言葉を失った。画面の中には可愛らしい絵文字とともに『レイジとマドレーヌを焼いているので、後で届けるかもしれないわ』という、曖昧な予測の約束を与えられていた。 これはどう解釈すべきなのか。二人で一瞬途方に暮れてしまった。 顔を見合わせて同じように首を傾げた後、不意に響也が気づいてポンと手を叩いた。 このメールのおかげで、自然に先程の問題が解決出来る。確信にも似た思いでそう考えて、響也はにっこりと成歩堂に笑いかけた。 「成歩堂さん、いい考えがあるんですが……」 「え?これ、解ったの?」 どうしてこんな曖昧な物言いを、御剣ではなく、その母親がわざわざ送ったのか。明快な回答があるのかと驚いたように響也を見遣れば、彼は苦笑していた。 「多分、御剣さん……成歩堂さんが来れない理由が解らなくて気にしているんじゃないですかね?だからお母さんが製菓練習に付き合っても落ち着かないのかも知れないですよ」 だから作ったものを届ける口実に会いに来るのかも知れない。…………多分ではなく、おそらく確実にそうだ。確信してしまえるのが難点だが、この際その点には目を瞑ることにした。 もっとも、目の前の成歩堂は不思議そうな顔をするばかりで、納得はしていないようだが、この場合はきっと御剣自身であっても同じ反応を返すだろうから、問題からは切り離しておいていいだろう。 そう考えながら、時間を見遣る。御剣の家とこのライブ会場、マドレーヌの焼ける時間、出掛ける準備、諸々を考えて、なんとか成歩堂が帰るまでには間に合うだろうと目算する。 「だから、御剣さんのことも、呼んでみていいですか?」 「え?ここ、に?」 「はい。出来ればぼくも、スタッフにはどんな活動をしているか知って欲しいですし」 趣味に合う合わないは別として、やはり迷惑をかける場合もあるのだから、どんな活動であるのか説明はしたい。それにはやはり、実際に見てもらうことが肝要だ。 そう正攻法で攻めてみれば、ひどく嬉しそうに成歩堂が笑って、逆に響也の胃が痛くなる。騙しているわけではないけれど、少しだけ事実を歪曲していることは否めないのだから、余計に。 「そっか、そうだよね。御剣、普段クラシックと特撮音楽ばっかみたいだから、誘わない方がいいかな〜と思っていたんだけど、うん、そうだよね」 それがいいと、頷く成歩堂に心の中で謝罪を送りたくなる。おそらく御剣にこのバンドへの興味は聞くだけ無駄だ。………ただここに成歩堂がいる、それだけで彼はやって来るだろう。 その点を上手く誤摩化しながら誘うなら、成歩堂よりも自分の方がよさそうだ。………そうでなくては、逆に拗ねさせて意固地に拒否させるような事態になりかねない。 すっかり御剣への行動予測が、成歩堂の飼い犬であるもミツルギと重なっていることに響也自身も気づかないまま、自分が電話をする旨を伝えて響也は成歩堂から離れた。 自身の携帯電話をとりにメンバーたちの中に舞い戻った響也の口からは、深い深い溜め息が漏れて、事情はしれないが気重な電話が待っていることを知った大庵が、からかうように笑って、景気づけのように強くその背中を叩いた。 その痛みに少しだけ顔を顰めた後に苦笑を浮かべ、響也はメンバーや成歩堂に会話が聞き取れないようにと廊下に出た。その途中、中で寛いで欲しいと大庵たちのいる方を指差しながら奥に入ることを成歩堂に促しながら。 ……………今日も今日とて、響也は大忙しだ。 長いのでもう途中で諦めて切りました。多分後編で終わる。 そして御剣のお母様、段々オリジナルのシスターに似てきてしまう。いや、彼女よりは若干幼くて過保護なのですが。どうも御剣と一緒に書いているとシスターと和也を書いている気分に陥る。 …………まあそれは、御剣と成歩堂を書いていてもいつも思うことですがね。感情表現は結構成歩堂寄りなのかもしれん、お母様。 しかしなんだ。響也さんが苦労人で、大庵がそれと同レベルの気さくにフォロー体質だよ。いいお兄ちゃんたちだな! ミツルギの我が侭っぷりはもういつもの事なので忘れて下さい。あれでも飼い主は我が侭だなんて欠片も思っていないのですよ。むしろ可哀想なことして申し訳ないくらいだ。 でも多分、車に乗れるようにはならんだろうな。仕方がない。 08.05.20 |
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