柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
人の書いた詩の中に 灼熱の日も 真夏の陽射しは凶器だと思う。 そんな事を思いながら、帰り道、もう涼しくなった筈の陽光の強さに成歩堂は辟易としていた。 一日中いるキッチンの中の蒸し暑さに比べればマシかも知れないが、だからといって暑さに慣れるわけでもない。 愛犬の運動不足解消のための公園での休憩中、空を見上げては水分補給に勤しんでしまう。この時期ばかりは、ミツルギにも水を与えてやらなければへばってしまう。同じように隣で水を飲むミツルギは、夏毛に変わったとはいえ真黒な毛並みはひどく暑そうだった。 それでも彼はあまり暑さを感じないかのように見えるのは、体温など物ともせずにじゃれついてくるせいだろか。 人間が暑さにへばり易い事を知っているこの賢い犬は、暑いこの季節、寒い冬とは違ってじゃれるのにもこちらの都合を伺うように首を傾げる事がある。 「おいで、ミツルギ」 小さく笑いながら、そんな風に呼ぶと、水を口の周りにたっぷりつけてしまったままじゃれついてくる。 それもまたいつもの事で、愛犬を撫でながら既に片手に持っていたタオルでその口元を拭う。 たったそれだけの事でも、この気候の中ではかなり暑い。 頬を滴り落ちた汗はあっさりと犬の舌が拭ってしまうけれど、暑さ自体は消えなかった。 当然かと苦笑しながら、尻尾が振り切れそうな程はしゃいでいる飼い犬の背中を優しく撫でる。それにより一層鼻先を押し付けて喜びを表す様は、暑いなどという事も忘れる程愛おしかった。 「………なんだか僕も犬になった気分だな」 困ったように笑い、そろそろ愛犬の重さに耐えかねてごろりと芝生に寝転がった。 持っていた敷物では座る範囲しかカバー出来る筈もなく、きっと今横になった背中や頭には芝生や土が付いた事だろう。 それもまた面白いかと、そんな事を思う。こんな風になにも考えずに地面に転がれるのは、小さな頃の特権だろう。そんな懐かしさを思い出させてくれるのは、いつも純粋に懐き慕うこの犬の存在だ。 寝転がった飼い主の腹の上、前足を乗せ手首を傾げる犬は、相手が疲れたのか遊ぶつもりか考え倦ねているようだ。 その頭を優しく撫で、背中を辿る。思った通り温かいけれど、人程暑すぎない。毛皮を被っているのに、動物は人よりも体温が低いのだろうか。 考えてみると、買うために必要な食べ物とか予防注射とか物品とか躾とか、そんな生活に必要な知識ばかりで、体温だとか爪の長さだとか、トリビアに近い事は覚えていなかった。 今度また本を読み返してみようか。………それともそんな事は病気に関する本にしか載っていないだろうか。 あれを読むと悲しい気持ちにばかりなるので出来れば避けたいと、暑さも忘れて腹の上から顔を舐めてくる飼い犬を抱き締めた。 事故も病気も、あまりに唐突にやってくるもので、当たり前のものが当たり前で無くなる事があっさりと突きつけられる事を見せつけられる。 どれほど気を配っても、決して無くならないのだ。………回避しきれないのだ。 「お前はあったかいね。………ずっとそのままでいてくれよ?」 キョトンとしたままの飼い犬の鼻先に口吻けて、囁く程小さく呟いてみる。 この暑い暑い季節の中、それさえものともせずに自分に懐き、嬉しいのだと尻尾を振ってくれる大切な犬。 知っている事は彼特有の事ばかりで、犬に関しての知識はほとんど無くて。 飼い主としてはかなり駄目な部類だと痛感するけれど。 それでも彼が自分を選んでくれたのだから。 せめてその信に応えられるように在りたい。 君が一瞬だって長く幸せに生きられるように、自分に出来る努力をしよう。 暑い暑いこの夏の日。 改めて、君は僕の歩む道を教えてくれた。 大事なものを亡くしてしまったあの日のように、その身体を目一杯使って僕を守ってくれる、大切な大好きな、僕だけの犬。 夏のあっつい頃に書いてそのまま放置していましたよ。やっと書き上げた。 犬の体温とか、そういう基礎知識は無いです、私(オイ)そもそも飼っていた頃からそういうの知らなかったしな………。 でも犬をぎゅっとしても暑くなかったのですよ。でも冬にぎゅっとすると気持ちいい。不思議で嬉しい矛盾(笑) 結構老犬の方が撫でたり抱きついたりしても抵抗しないでくれるのですが(許容なのか体力的に拒絶出来ないかは知りませんよ)、私が飼った事があるのは中型犬以上ばかりだったので、そういう意味でも穏やかで子供好きな犬が多かったのかも。 おかげさまでミツルギを書くととにかくベタベタして好き勝手甘えておけ!と思うよ(笑)その方が成歩堂も喜ぶしね☆ 10.9.12 |
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