柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter | クリスマスは生き地獄だ。ふとそんなことを考えることの出来る今の状況に成歩堂は溜め息を吐き出した。 通常ならばクリスマスは楽しい行事のNo.1にあげられることの方が多いだろう。 しかしその楽しさの一因に組み込まれるものを作り上げる身としては、常時の二倍三倍の働きを要求される魔の期間だ。嫌いではないし好きだけれど、やはり少々身構えてしまうのは否めない。 「成歩堂?」 そんな成歩堂に不思議そうな顔をして御剣が声をかけた。手には紅茶の入れられたマグカップ。本来ならばC/Sで提供したい所だが、面倒だからマグカップがいいとあっさり主張した成歩堂にあわせ、スタッフに振る舞う時は大振りのマグカップになっている。 おそらく以前はコーヒーが主だったのだろう。それ用にしか見えない厚みのあるマグカップに琥珀の液体を注ぐ時の奇妙な違和感は未だに御剣には慣れないものだった。 御剣が差し出したマグカップを礼を言いながら受け取り、いくつかの草案が書かれている紙を指差しながら、今の溜め息の原因を教えた。 「ほら、クリスマス準備しなきゃなって思ってさ」 「…………成歩堂、今は10月になったばかりだが」 苦笑して言う成歩堂に、御剣が至極真面目な顔で異議を唱えた。そもそもつい先日ようやくハロウィンの準備が終わったばかりだ。まだその当日すら来ていない今から、年末のことを言い出すとは何事だろうか。 まさかとは思うが働き過ぎで日付感覚どころか月の感覚すら失われているのだろうか。………彼の負担にこそなれ、手伝うことの出来ない生来の不器用さが今更ながらに疎ましく思えた。 苦い顔をして顔を顰めてしまった御剣にきょとんと成歩堂は目を丸めて、それから合点いったというように笑いながら手を振った。 「ああそっか、御剣は初めてだから変に思うよな」 「ム?」 「こういう仕事だとね、大体半年前から材料屋からカタログがくるんだよ。こんなパッケージはどうかとか、行事にあわせたラッピング袋とか箱とかね」 「…………半年」 「この間来たカタログ、あれはメインがバレンタインだったよ?」 早いだろうと笑いながらいう成歩堂は、珍しい御剣の驚く顔が楽しいようだった。 「それにほら、真宵ちゃんたちは行事付近で手伝ってくれるけど、春美ちゃんの作ってくれるプライスカードは、早めに決めておかないと困るだろ?」 まだ小学生の春美は、姉と慕う真宵についてきて、よく店の手伝いをしてくれる。それでもさすがに接客を任せるわけにはいかないので、裏でプライスカードやラッピング用品の準備や点検をしたり、雑用を中心によく働いてくれた。 忙しくて自分用の飲み物も入れていられないパティシエたちにドリンクを提供したりと、精神的に擦り減りそうな行事の近辺ではなくてはならない心の栄養素だった。 そんな春美の頑張りをもう見知っている御剣は頷きながら納得したようだ。 そして今度は成歩堂の手の中にある草案を書いた書類に目を向ける。いくつかのホールケーキの絵が描かれ、それぞれになにが乗りどんな味か、どんなデコレーションになるのかが書かれている。 「CHIHIROでもクリスマスケーキの予約、やるんだよ。まあもちろん数量限定で、予約してくれた人にだけなんだけどね。それもいい加減決めないといけないし、クリスマス商品のアソートセットとかどんなのにするかも決めないといけないし……やること一杯だよ」 困ったような声で言うくせに、成歩堂の顔は楽し気に笑っている。 成歩堂がこの仕事に就いた初めのきっかけはとても些細で、人によってはとるに足らないことだったかもしれない。 それを再会した日に、思い悩み打ち拉がれていた御剣は教えてもらった。………とても、愛しい大切な思い出として。 だから、なんとなくだけれど、御剣にも解る。 大変なことだらけで、休日だってろくに休んでいられないし、経営者の一端である成歩堂など、ほとんど朝から晩までこの店にいるようなものなのに。 それでも、嬉しいのだ。………自分が感じた幸せを誰かに提供出来るこの場所が、忙しくて首が回らないくらい人々に愛されていることが、この上もなく、嬉しいのだ。 「では私も君の負担にならないよう、努力しよう」 「うん?はは、御剣にもアソートセットの相談するから、忙しいの覚悟しておけよ?」 柔らかく笑んでたたえるような声音で告げる御剣に、くすぐったそうに成歩堂が返す。時折彼は、こんな風に聞いている側がどうすればいか解らないような笑みや声で話すから、心臓に悪かった。 ………懐かしい旧友が、こうして毎日のように顔を合わせることの出来る同じ職場で、一生懸命努力を重ねて自分にかかる負担を減らしたいと願ってくれることは、奇跡のような現実だった。 もう二度と会うことなどないのだろうと思っていたのに、小学校の卒業アルバムにだって名の載っていない彼は、どんな運命の悪戯か自分の飼い犬にその名を与える状況を作ってしまった。 彼の知らない過去の中、彼のいない卒業アルバムと、彼の父の法廷が書かれていた新聞とが、おそらくは初めのきっかけだった。 巡り巡って、離れ離れの縁というものが、唐突の偶然によってまた結びついたのなら、きっと自分は幸運であり強運なのだろう。 そっと、思い。成歩堂は微笑んで御剣を見上げた。 彼の思考など知らない御剣が戸惑うように首を傾げる様さえ、嬉しい。 あの再会の春の日を思い出しながら、成歩堂は紅茶のおかわりを所望した。 本日は火曜日(定休日)なので他に人がいません。でも暇な人はパラパラ来そうだよね。成歩堂はミツルギオンの散歩ついでに休みの日も顔見せています。いや、チャーリーくんがいるから。 そして御剣がいるのは単に暇だというのでお菓子作りの練習に。多分作り上げた奴は半分は店で翌日のまかない時に提供され、半分は御剣の両親とともに食べるんだよ。 「一緒に作ればここまでなんとかなるようになりました!」と嬉しそうに報告する成歩堂にご両親も微笑むよ。…………書きたいかもしれん、そんな家族団欒な御剣家………! しかし、実話ネタ盛り込むと話が作りやすいよね。 ………本当に半年前くらいからなんですよ。夏にクリズマスのことなんか考えられるか!とか思いますが。むしろ目の前の行事だけで手一杯だよ!とも。 でも、10月に入って材料屋に注文したら、既に品切れだったそうです。戦慄したね。 あーゆーカタログ可愛くて好きだけど、実際持っていてもどうしようもないのだよなー。なにせ単位が20枚以上が最低だし。いくつかずつを合わせて20枚、とかだったらまだしもな………そんなに一種類いらない。 でも写真だけじゃなかなか実物が解らないのですよ。立体だった日にはどれくらいお菓子が入るのか予想しながら選ばざるをえないという。入るか、これ……と言い合いながら(笑) でもまあ、資料にいいかなーと思ってオーナーにカタログもらえませんかと問いかけたら、持ってくるから好きなのどうぞと言われたよ。嬉しいけど、あなたがそれを持ってこれるくらい余裕のある日って、いつ?(汗)頼むから無理はしないで下さい、オーナー……… 07.12.2 |
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