柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter | 成歩堂にはどうしても慣れることの出来ない音があった。 それでも一日の仕事の中で何度かそれを聞かなくてはいけないのは、仕事柄仕方のないことだと解っている。 しかし、解っていることと、慣れることが出来るかどうかは別問題なのだと訴えたいが、訴えた所で現実は変わらない。 むしろそれを元にからかわれることが増えるだけだろうと、必死の虚勢で出来る限りそれを聞かないように気をつけていた。 そのせいか、それが行われるだろう時は、つい緊張して腕に力が入る。作業も、けっして飾り付けなど、細心の注意を必要とすることは避けてしまうほどの徹底ぶりだ。 ………オレンジムースを型に流している時、それがきた。 表面を平らにし、四隅にまでタネ行き届くためにカードを滑らしていた手が、一瞬だけ止まってしまう。 同じような作業をしている、原因たる響也は鼻歌さえ歌って楽し気だ。 半紙を敷いた型の中、ロールケーキのスポンジ生地が流される。計量しながらの作業は淀みなく滑らかで、彼がいかにそれを得意としているかが窺えた。 そろそろだろうな、と思いながら、綺麗に整えたオレンジムースを冷蔵庫の中に入れた。 同時に、響いた、音。 ―――――――――ガンッッッッ!!!! 鋭くキッチン内に響くその音に成歩堂の肩が跳ねる。 その場にいた誰もがそれに気づくが、毎日のことなので敢えて何があったかとは問わない。………少しだけ口元が笑っているのはこの際仕方のないことだろうと、笑われている張本人である成歩堂も思った。 どうしてもこの音が、慣れないのだ。生地の中の気泡を逃すために不可欠なことだけれど、それはひどく大きく鋭く耳に伝わり、自然と身体が驚いてしまう。 全ての型に同じ作業を終えた響也が、ほっと息を吐いている成歩堂を見遣って、困ったような笑顔で問いかける。 「………成歩堂さん」 「な、なにかな?!」 決して響也はからかおうとか、そうした明確な意識は成歩堂には向けない。少しくらいからかわれているのを眺めていたりしても、必ず最後には助け舟をくれる。 だから警戒する必要はないと解っているけれど、このタイミングで声をかけられたことに焦って早口になってしまった。 「いえ……あの、やる前に、声かけましょうか?」 さすがに2年もの間同じ反応をされているとこのやりとりもかなりの回数を繰り返している。 そして必ず、成歩堂が返す言葉も同じなのだ。 「だ、大丈夫だよ。その内慣れるって、きっと!」 それを初めに聞いたのは、確か自分が兄とともにこの店に来た22歳の時だったのではないだろうか。 ふとそんなことを思いながら、やはりその時も真っ赤な顔で同じ台詞をいっていた彼を思い出す。 きっとまた同じやりとりをするのだろうな、と思いながら、それでも響也は微笑んで、解りましたと答えると型をオーブンに入れるために歩き始めた。 おそらくは自分たちのこんなやり取りを楽しんでいるのだろう神乃木と兄を見遣りながら、どんなことにも前向きな成歩堂を、少しだけ尊敬してしまう。 自分ならば、こんな二人にからかわれる原因なら厭ってしまいそうだ。 少々失礼なことを思いながら、自分だけは彼の味方でいようと改めて思い、オーブンのタイマーボタンを押した。 ………振り返った先の成歩堂は、いつものように一生懸命、冷菓作りに勤しんでいた。 ………物凄く苦手なんです、この音。 サンドイッチ作っている時とか、背後で突然それされると思いっきり身体が跳ねる。 そして作っている人にごめんねと謝られる。声かければよかったと言われても、あの音が来る!と覚悟しても結局は多少なりともびくついているので意味はない。 なんとか慣れる方法はないものか。…………まあ無理なんだろうけどね。大きな物音は苦手なのですよ、どうしても……… 07.12.4 |
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