柴田亜美作品

逆転裁判

NARUTO

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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 「まあ取り合えず、こんな感じかな」
 そういって成歩堂は手早く抜いて小さな山になっている雑草を見せた。
 残すべき花やハーブは見れば解る。ただ、間違って抜かないようにその状態を覚えさせようと実践した成歩堂は、それプラス雑草の抜き方や処理の仕方も伝授した。
 菜園というほどの規模ではないが、CHIHIROでは数種のハーブも庭で育てていた。その管理はいままでは主に成歩堂が、時折彼の仕事が押していれば他のスタッフが見ていたが、新人が入った事を機に、その仕事を任せる事にした。
 しかし、趣味としてそうした植物に興味がない限り、そうは世話の仕方など知っているものではない。それは実体験で知っている成歩堂は、同じ苦労を味わわせないために、新人である王泥喜に一からきちんと教えていた。
 「で、もう刈り入れの時期は終わっちゃったけど、これから涼しくなったら冬対策もしなきゃいけないんだ。それはまたその時に教えるから」
 「あ、案外大変なんですね」
 いままで成歩堂が一手に引き受けていたと聞いていたので、彼の仕事量を考えて大雑把に出来る事かと思っていたが、存外こまめに見なくてはいけないのかもしれない。
 そう思い直し、気合いを入れるように握り拳を作る王泥喜を、成歩堂は苦笑しながら見遣って立ち上がった。
 「そんなことはないんだけどね。基本的にハーブは野性的に育てた方が失敗が少ないんだ。まあ水のやり過ぎとかで根腐れ起こすのが一番パターンかもね、枯らすのは」
 「は、はい、注意します!」
 「うん。あとは、梅雨の生長時期は葉を空かせてあげることと、収穫はこまめにする事と、夏と冬の寒暖の厳しい時には守ってあげる、それくらいだよ、注意点は」
 初めてなんだから初めは一緒にやると成歩堂は緊張している新人を安心させるように笑っていい、雑草を抜く際に使っていた軍手をとった。
 爪先には、土が入り込んでいる。いくら軍手をしていても土いじりをすればどうしても手は汚れてしまうのは仕方がない事だろう。キッチンに戻る前にしっかり洗わなくては、霧人辺りに注意を受けそうだ。
 苦笑しながら指先を擦るようにして土を払っていると、不意に視線を感じる。それは当然この場にいる自分以外の人物、王泥喜からのものだろうと成歩堂は顔を上げて彼を見遣った。
 じっと成歩堂の指先を見つめる王泥喜に、成歩堂は首を傾げた。
 別段、おかしな点はないだろう。怪我もしていないし、汚れもそう酷くはない。どうかしたかと問うように相手を見遣れば、不躾に見つめていた事に気づいたのか、王泥喜の顔が真っ赤に染まった。
 「オドロキくん??」
 問う声音で名を呼べば、アワアワと混乱したままの相手が唐突に大声で答えた。
 「いや、綺麗だなって思ったんです!!」
 「へ?」
 思ったままの言葉をそのまま口にした王泥喜の発言に、成歩堂は目を瞬かせて困惑を示した。
 綺麗と評されるような部分を、残念ながら成歩堂は持ち合わせていない。それを自覚しているし、その事自体で落ち込むような事もない。もしも手を綺麗だというなら、霧人の方が相応しいだろう。彼はこまめに手入れをしていて、いままで手が荒れている所を成歩堂ですら見た事がないのだから。
 それに褒めるにしても男に綺麗もないだろうと返答に困ったように成歩堂が笑うと、王泥喜は自身の失言に気づいてまた大声を張り上げた。
 「あああああー!!ち、違うんです!そうじゃなくて………!!」
 「取り合えず、落ち着こうよ」
 「だからあの、ほら!成歩堂さんは、その手で一杯色々なものを作ってきて、俺もそれが嬉しかったし、これからも色んな人にそうするんだなーって思って!」
 だからその行為はとても綺麗に思えたのだ、と。説明にもならないあやふやな感覚の思いを口にして、王泥喜はしゅんと項垂れた。
 ………説明など、出来ないのだ。思ったのも感じたのも本当だけれど、それが故に、説明など出来ない。
 綺麗だった。汚れて、女性のような丸みも細さも無縁なその手のひらは、それでもひどく美しかった。
 その指先が誰かを幸せにしたいという祈りのもと捧げられるというのなら、それはいっそ聖母の御手に近いだろう。………男にそのたとえもまた、おかしなものではあったけれど。
 怪訝な目で見られるだろうと、あるいは嫌悪されるだろうかと、悪い方にばかり考えていた王泥喜の項垂れた頭に、ぽんと、成歩堂の手がのせられた。
 そうして照れくさそうな顔で笑う彼は、ぐしゃぐしゃと新人の髪を掻き混ぜながら、喜びを響かせていった。
 「ありがとう。でもね、君もいずれ僕と同じ手になっていくんだよ」
 だから一緒に頑張ろうと、新しい仲間に成歩堂が笑いかける。
 なんの含みも知らないまっさらな笑みを正面から見た王泥喜は、惚けた顔のあとに盛大に首を縦に振って肯定を示した。そうして真っ赤に染まった顔を持て余しながら、嬉しそうな成歩堂が教えてくれるハーブの保存方法に耳を傾けた。


 それはまだ、秋も暮れない、新人の入ったばかりの、とある夕刻の話。





 そんなわけで王泥喜くん初めのお仕事伝授。
 基本的に仕事を一番抱えている成歩堂から新人に仕事が引き継がれていく感じですね。まあ出来るようになるまで倍の仕事量になる感じですけど………。教えながら作るって精神的に物凄く疲れるしね。

 愛知県民の所のハーブのお話とは切り離して見ていただければ幸いですよ。アッハッハ(遠い目)
07.12.18