柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
足繁く彼はやってくる。 君が居る只それだけで、僕は此処に存在する 見遣った先には相変わらず眉間に刻まれた皺と、気難しそうな表情。それにこっそりと息を吐き出して、畏縮したように俯く。 別段自分が悪いわけではない。それは、解っている。ただ同じように彼もまた悪くない。意見の相違というよりは、感覚の相違だろう。そんな問題を議論したところで解答など出るわけがない。 けれど目の前の男はそれが不満らしく、先ほどからその表情を険しくする一方だ。 「だから………仕方ないっていってるだろ?」 言い訳がましい響きになるのは、どう考えてもこの場合、自分の方が負担が少なく、彼に負担が大きいと解っているからだ。 ………もっとも、精神的負担で考えたら軽く彼のそれを超えて自分に負担なのだが。 その点について言葉を尽くしても、きっと彼には解り難いだろう。そうしたものは実際体験するか、己自身がなってみるかしかない。 そもそも理解してもらおうとも思ってはいないのだ。マイナスとなる感覚など、どんな人間にも背負ってほしくないと思うのは当然のことだ。 そんな不満が顔に出ていたのか、より目が据わった状態で睨みつけられる。まるで法廷にでも立たされている気分だ。しかも弁護士としてではなく、被告人として。 「貴様はそういうがな」 声も一段と低い。それだけで逃げ出したいなどと考えてしまうが、もちろん本気では考えていない。実際に逃げ出した場合、彼が落ち込んでしばらく立ち直れないことは目に見えている。 視線を逸らして少しでも迫りくる勘気から逃れようとするが、あまり効果はなかった。 「現実として、同じ目にあったらどう思う?」 「………だから、僕はあまり………」 スキンシップは苦手だと、ほとんど聞き取れないほどの声で告げてみれば、ぴくりと彼の眉が反応した。 気持ちが解らないわけではない。まして常に一緒にいるといっても過言ではない春美や真宵には好きなだけ接触を許しているのだから、余計にだろう。 そうだとしても実際問題、大の男に懐かれて喜べるはずもない。まして自分よりも背も体格もいい相手だ。多少の恐怖を感じるなという方が無理というものだ。 暴力であれば拒める。自分もそれなりに力もあるし、腕力でそうは負けない。悪意や害意のある腕から逃れられないほど愚鈍でもない。 それでもそれが、好意や慈しみからくるものであれば、戸惑いしか残らない。 「嫌なわけじゃ、ないよ?ただ………」 「苦手だから触るなといわれても、こちらとしても困る」 触れたいという欲求は極自然なものだと彼はいう。それはきっとその通りなのだろうと、こちらも納得はする。……………納得は出来ても、実際にそれを行動に移せるかといわれれば、かなり無理な話なのだが。 幼い頃から繰り返されていれば、まだ大丈夫だっただろう。実際矢張などに肩を組まれたところでなんとも思わないのだから。小さかった腕が少しずつ大きくなったところで警戒心は湧かないし、恐怖もない。 けれど今現在目の前にいる男は、幼かった面影から唐突に大きくなってしまった。あの頃は平気だったことが今は無理といわれても、確かに相手が不満に思うのは当然だろう。 恐怖心への理解は示してくれても、それが当て嵌まらない人間がいるからこそ、彼は不満だという。それは多分、以前自宅に招かないでいたのと同じような、拒否を念頭に置いた怯え故の不満だ。 「…………君はこういったことに淡白すぎる」 少しだけ寂しそうな声で、彼が言う。 どうもこうしたことは話す際、彼がよくそれを口にしてしまうのは、自分が大抵のことを気にしなかったり、求めていなかったりするせいらしいが、多分それは違うだろう。 彼は目に見えた執着を示していて、形として解る証を欲しがる。それは多分、今までの彼の検事としての仕事柄の癖でもあり、性分でもあるのだろう。確たる証拠品は、目に見え触れることが出来る、そんなものでしかあり得ないから。 だからきっと、自分が気にかけなかったり求めなかったりすることが不満なのだ。 目に見えずとも、自分には十分それらが解り、与えられていると実感が出来る。そして多分、自分は彼以上に渇望し続けたものを、淀みなく絶えることなく、今現在さえ与えられ続けている。 ………おそらく、彼にはまだ解らないのだろう。自分が淡白などあるはずがない。自分の執着は、彼の執着とはまた違う意味で、強固だ。 いまいち忘れがちな彼だが、15年という歳月をものともせずに願い続けていることが、どれほどの偏執か解っているのだろうか。 彼が傍にいる。会うことが出来る。ましてや、彼が自分を認め、この名を呼び、会いたいと願ってくれる。このことがどれほどの歓喜かなんて、きっと永遠に解らない。 ずっと願っていたことだ。彼が懊悩し続け、周囲に目を向けることも出来なかった頃からの、自分の繋がり続けた唯一の願い。幼い自分と現在の自分を繋ぐモノ。 それは確かに自分を構成する一部だ。それなくして、今の自分が成り立たないほどの、根源だ。 …………それはとりもなおさず、彼こそがという、そうした結論に帰着してしまう。 「君は……鈍すぎると思うけどね」 小さく息を吐き、顔を逸らしたままぽつりという。たまに、どうしようもなく悔しくなる。 自分は解るのに、なんで彼には解らないのだろうと。彼が与えてくれるものと同質の量を、自分は返していないのか。 …………劣るほど浅薄な感情を携えた覚えはないのだ。気付こうと思えば気付けるはずなのに、彼はそうした部分がひどく鈍感に出来ていて、解りもしないまま、時に自分に棘を飲み込ませる。 「………なんだと?」 苛立ちを微かに込めた声。逸らしたままの顔には眇められたのだろう、強い視線が向けられる。 それをものともせずに頑強さを込めて、彼ではない他の部分を睨んだまま、口を開いた。 「即物的で短絡過ぎ。目に見えないものだってこの世にはあるって、いい加減気付けよ」 形あるものばかりを欲しがって、それ以外に目も向けない。それでは絶対に解らない。 それだけで満足など出来ないというならまだしも、それが解らないから補いたい、なんて。…………どれだけ自分を軽んずるのだろう。 思わない、わけがない。 愛しくない、わけがない。 彼が向けてきた時間よりもどれだけ長く自分がそれを求めていたか。ただ傍にいるだけでも嬉しいと、そう願えるほどの時間を経てしまった感情を、彼は顧みたことはない。 それ故に多少変質したらしい感情は、幾分彼がいう淡白さを兼ねていて、触れあう喜びよりは思いあう喜びの方がより強い。 けれどそれが故に思いが浅いなど、思われたくはない。 「いっただろ、僕は」 「………………」 「傍に居たいって。それ以外、望むことがないって」 それが何より一番願い続けたこと。たとえ他の誰かを選んでいたとしても、何があっても、それでも一緒にいられれば、それだけでいい。 それは確かに多少彼のいう恋愛感情から外れているだろうけれど、彼が望む限りはその場所にい続けたいし、望まなければ親友としていたい。 ……………手に入らなければ離れたいと願う彼の感情と、手に入らなくとも傍にいたいと思う自分の感情のどちらがより深いかなんて、そんな不毛なことは考えはしないけれど。 より以上の感情なんて存在するはずがない。相手を無二と思うからこその感情であれば、間違っているなどといわれたくはない。 自分の感情は彼の望むものとは多少ずれているけれど、それは彼を拒む意味ではないのだ。 解ってほしいと幾度いっても、彼は同じものでないのなら違うのだと思い込む。 「それを願う以上の、何が必要なのか、僕にはまだ難しいんだよ」 触れあう体温が優しいことは知っている。慈しむように頭を撫でられることも、嫌ってはいない。ただ、それ以上の行為には無意識に身体が強張るだけだ。 抱擁さえ、今はまだ怖い。裏切られることを知る腕は、死を覚えた腕にもなって、この手のひらからこぼれ落ちるものを恐れている。 「…………………、なら」 躊躇う間を持って、彼が声をかけてきた。声音には先ほどのような憤りはない。躊躇いがちの、何かを願うときの彼の声。 首を傾げて、どうかしたのかと不思議そうに彼を見遣る。なんだか久しぶりに彼の顔を見たような気分になった。 「うん?」 「少しだけ……抱きしめても、いいか?」 嫌なら拒んでいいのだと、揺れる瞳が告げている。彼はきっと知らない、その仕草。 戸惑いと逡巡をのせてあちらこちらに視線を向ける間、彼は諦めるための算段をつけているのだろう、俯いていく。 小さく息を飲んで、覚悟を決めて。震えそうな指先を叱咤して、握りしめる。 「うん、いいよ?」 怖くなったら離してくれるなら、と。躊躇いがちに付け足した言葉に彼は大きく頷いて、嬉しそうに手を伸ばす。 それを眺めながら、やっぱり怖いな、と、考えて。 そっと目を閉じた。
多分きっと彼は知らない。 恋愛に臆病な成歩堂でした。というか、どちらかというと愛は解れど恋は解らないという感じ? むしろ好意は解るが恋情は解らんのか? うちの成歩堂は接触が苦手ですよ。そのおかげで抱擁自体も滅多にしません。キスにいたっては数えれる回数しているのか不思議です。むしろ多分、してないんじゃ? それでイメージ定着しちゃったのは己のせいなので誰にも文句はいいませんが。…………でも少なくとも御剣が面白いくらい鈍くて拗ねやすいのは愛知県民のせいだと思う。 まあこれだけはっきりとプラトニックなら誰もそれ以上は期待せずにいてくれるだろうから、いいか。 07.6.27 |
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