柴田亜美作品

逆転裁判

NARUTO

突発。
(1作品限り)

オリジナル
(シスターシリーズ)

オリジナル



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自分が何をしたのか、知らないわけじゃなかった
多分、誰も裁かないだけで、
自分こそが全ての元凶だった

本当のパパも
今のパパも
おじいちゃん、たちも

きっときっと、巻き込まれた
自分という、ちっぽけな命に

それなのに
誰も責めないで
誰もが愛しいのだと、手を伸ばしてくれる


だからお願い。
傷付かないで。
愛しいと伸ばしてくれたその腕で
たった一人、顔を覆わないで。





秘密の恋の法則



 ぼんやりとしていることが多いような気が、する。
 いつもいつもそんな顔をしているけれど、その違いが自分には解った。だからこそ、今の彼が普段のポーズとしているその仮面とは違う、本当にぼんやりとしている状態だということが解った。
 けれど、困ったことが同時に発生してしまう。解っても、自分にはどうすることも出来ないという、このもどかしさ。
 幼い頃はただひたすらに傍にいた。笑いかけて、その腕を抱きしめた。大丈夫と言葉に出来ない、その代わりに。
 今は……言葉に詰まる。何故彼がそんな風になっているか、なんとはなしに理解しているから。
 「…………………」
 彼の座るソファーに近付いて、床に直に座り込んで、その顔を覗き込む。すぐに手が降ってきて、頭を撫でてくれた。
 それは大きな手。ずっと自分を守ってくれた、優しい腕だ。
 「ねえパパ」
 そっと囁くように声をかける。小さな小さな声で。これだけ近付いていなければ解らない、そんなささやかさ。
 大きな目を細めて、彼は優しく笑った。頭を撫でる手のひらが滑り、頬を撫でてくれる。まるで子猫をあやすような仕草だ。
 それに小さく笑って、甘えるように頬をすり寄せる。そのまま、また、彼のことを呼んだ。
 「なんだい、みぬき」
 柔らかな声で彼が答える。ゆったりとした音。あたたかい音。この七年間、自分を守り導いてくれた、たった一人の人の声。
 それを耳に響かせ、ふわりと微笑む。子供らしい無邪気さとは少し違う、切なさをきちんと知っている大人の笑みで。
 ………それを視界に入れた彼が、遣る瀬無さそうに眉を顰めた。
 「悲しいね、パパ」
 「そうだね」
 「寂しいね、パパ」
 「うん」
 互いに違うことを考えながら、それでもお互いに紡いだ言葉は確かに同じだった。
 今回の事件はお互いにあまりに多くのものが関わっていて、そのどれもが容易く手放したり切り捨てたり出来るような、そんなどうでもいいものではなくて。
 解決したのに、あとに残ったのは遣る瀬無いまでの寂しさと悲しさと、身を切るような、痛み。
 そうしてほんの一握りの安堵と、充足感。
 真実はいつだって鋭利な牙を潜めている。だからこそ、人はそれを追い求めることを恐れるのだ。それを追う者を排除したがるのだ。
 解っていたけれど、それでも自分も彼も、それから目を逸らすことは出来なかった。
 ………夢を見て生きられたら幸せだ。けれど自分達は、夢を見せることが出来たとしても、自身が夢に溺れることは出来ない。
 どうしても、出来ないのだ。
 「ねえ、パパ。だからね、みぬきは思うよ」
 そっと大きな手のひらに自分の手を重ね、撫でるように力を込めた。手のひらの下で、僅かに彼の身体が緊張したのが解る。
 重ねた手とは逆の手を伸ばし、彼の頬に触れる。あたたかいだけで濡れていない頬は、遣り切れないほど静寂だった。
 「パパも泣いていいと、思うよ?」
 ごしごしと擦るような力加減で頬を撫でる。無精髭が少しくすぐったかったけれど、包むようにして、その頬を撫でた。
 濡れない指先が少し寂しい。…………零せないものが、彼にとっての遣る瀬無さをなお募らせると解るから。
 困ったように笑って自分の手を包む彼は、首を傾げて戸惑うように目を揺らした。珍しい、と目を瞬かせる。彼はこの七年間で、幼い自分が教えたままにその癖の全てを隠してしまった。
 今更それが浮上するなんて、どれくらい彼の中の何かが脆くなっているのだろう。
 それは意志とか誇りとか、そんな単純なものではないのだ。彼が彼であるというその根源的な要素。自分が愛しいと思ったあの真っすぐな視線を支える何か。
 それが、揺らめいている。
 …………夢見たいと、そう呟くように。けれど、それを拒否せずにはいられない自身を悲しむように。
 鏡写しのように同じ格好をした二人は、お互いに困ったように笑って、揺らめく瞳のまま、互いだけを見つめた。
 不思議な、空間だ。世界にはもっと多くの人間がいて、もっと沢山の出来事もある。
 それなのに今この瞬間だけは、世界はこの小さな空間だけで、この世にはたった二人しかいない、そんな錯覚を覚えそうだった。
 そんな物思いも同じだったのか、二人して同時に吹き出すように唇を歪めて、眉を顰めた。
 大笑いしたい衝動を噛み殺す彼の頬をもう一度撫でた後、ぎゅっと、その首に腕を伸ばして抱きついた。
 大きな肩。自分よりもずっと大きい。小さい頃から見上げなくては顔も覗けなかったけれど、今もそれは変わらない。大好きなその身体に頬を寄せて、その肩に目を埋め込んで、そっと囁く。
 「パパもね、泣いていいんだよ」
 先ほどと同じ言葉。揺れたのは自分ではなく、彼の肩。
 抱き締めた身体は戸惑うような気配を滲ませて、けれど拒まず、その大きな腕を背中に回して撫でてくれた。………彼が自分を慰めているようだと、小さく笑ってしまう。
 慰めたいのは、自分なのに。
 「いいんだよ。だって、みぬきだもん」
 ここにいるのは他でもない自分だからいいのだと、笑う。
 強がりでもなんでもなく、自分にはそれを見せていいのだと。自分にだけは、それが許されるのだと。確信と自信を込めて、はっきりと断言する。
 彼はその口調が好きだった。はったりでも何でも断言される言葉を、その意志を、好ましく思ってくれる。それにきちんと責任を負う意志があると理解してくれていたから。
 「みぬきがパパにだけ泣いていいのと同じで、パパだってみぬきにだけは、泣いていいんだよ」
 背中を撫でてくれていた腕の動きが、止まった。躊躇いを含んだ沈黙が流れる。
 見えはしなかったけれど、多分何度か口を開いたり閉じたりとしていたのだろう。そんな呼気の動きが耳に響いた。
 優しい彼は、小さな自分に悲しみを与えたがらない。事実を……真実を告げる勇気を持っているくせに、自身のことに巻き込もうとはしてくれない。
 巻き込んだのは、自分なのだ。だから彼もまた、自分を巻き込む権利があるのに。
 優しくて臆病な彼は、大事に慈しむことを願って傷を恐れる。
 ぎゅっと腕に力を込めて、仕方がないなぁと嗜める声で、彼に囁く。声が震えないことだけを必死に祈りながら。
 「みぬきは魔術師だから、大丈夫だよ?」
 「………………?」
 解らないというように困った顔で首を傾げる彼に、にっと企むように笑いかける。
 間近な顔は戸惑いと苦笑を滲ませた顔。大好きな父親の、顔だ。あまりに近すぎて焦点が合わないのが惜しいと思いながら、それでも彼を必死に見上げた。
 ………その歪んだ視野が、決して瞳に満ちた水面のせいだなど、思わないように笑いながら。
 「全部、みぬきが消してあげる。残さないでっていうなら、泣いたことだってパパの前から消しちゃうよ!」
 だからいいのだと、笑う。無邪気に甘えるように………ねだるように。
 悲しいのも寂しいのも本当。それはきっとお互いに。
 意味も対象も違うけれど、それでも感じるものは同じだから。
 溢れるものを流すことを躊躇わないでいいのだと、ただ体温を贈る単純な行為だけで、願った。
 言葉はあまりに難しく、彼はそれを操ることに長けていて、どうせ必死に言い募っても言い包められてしまうのだ。それなら、はじめから思うがままに。笑顔も涙も感情のまま。
 彼にだけ、示せばいい。それだけで、彼はきちんとそれを受け取ってくれるのだから。
 大好きな父親。もうこの世にたった一人の、人。
 愛しい本当の父を思い描きながら、同じほどに大切で守りたい彼を、力の限り抱きしめた。その肩に再び埋めた頬が濡れることさえ感じないほど、ただ一心に願い、抱きしめる。
 その思いを抱きしめるように、彼の大きな腕が、優しく背中を抱きしめて。
 ……………小さな自分の肩に、彼の目蓋が落ちた。

 そっと濡れるその感触は、きっと、お互いに感じている唯一のぬくもり。




優しい子、いつも僕を守ってくれる
あの出会いの日からずっと。

愛しい子、だから僕も守るよ
君がいつか大人になって
たった一人の誰かを見つけるその日まで
他愛無いこの腕だけど、精いっぱい
君を抱きしめて、守ってみせる

だから、お互いの肩を濡らした後は
真っ赤な目で、それでも。


…………一緒に、笑おうね?










 みぬきちゃーん!!今回4をやるにあたって何が一番楽しみだったって、彼女を見ることですよ! いやもう、成歩堂親子大好き。
 しかし相変わらず逆転裁判の主人公付近の人間は親子関係が凄いよね。ほとんどの人が片親死んでいるかいないかだよ。しかもそういうのは大抵女の子。
 …………幸せになってくれ。そう祈らずにはいられないよな…………。

 そんなわけで他の誰と一緒に書くよりも成歩堂が優しい上に素直です。だって相手も優しくて素直なんだもん!(笑)
 たぶんきっと春美ちゃんとか真宵ちゃんとかと書いてもうちの成歩堂はやっぱり優しくて素直だと思う。真宵ちゃんにはやれやれって感じで最終的に甘いけど、春美ちゃんにははじめから確実に大甘だ!
 ……………だって、女の子は可愛いもの………(最終的にそこかよ)

 今回のお題では4キャラと成歩堂、という感じで。どうしても足りなくて御剣もでばっていますが(笑)
 それぞれのキャラに対しての成歩堂の態度の違いを楽しんでくれれば幸い。

07.5.20