柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
思いを告げた。 目に映らぬままの約束(後編) 隣に座る人間が明らかに不機嫌なとき、一体どうするべきなのだろうか。 さっさと逃げ出してしまいたい心持ちのまま、未だ訪れない友人に恨み言を零したくなる。正直、彼の居ない中で隣の人物と一緒にいるのは、拷問に近いものがある。 おかしなことを言うと呑気にいう彼は知らないのだろうけれど、今現在も隣の人物は不機嫌なオーラを惜しみなく振りまいてくれている。おかげで周囲に人は寄り付かなくて、一般的な居酒屋だというのに、妙に静かに感じるほどだ。 折角の幼馴染み三人での飲み会も、一人の参加があるのとないのとでは場の雰囲気が雲泥の差だ。 急な依頼人との話し合いで参加出来ないかも、と連絡があったのはつい先程だ。………出来る限り参加してくれ、と返信したのは今さっき。そして同時に彼はこうも不機嫌になった。 机の上には彼の携帯電話が乗せられている。………解りやすいほど解りやすい理由で不機嫌だ。 成歩堂からの連絡が、矢張にはあって自分には未だない事が彼をこうも不機嫌にしている。しかも、成歩堂への不機嫌さではなく、連絡を自分より先に貰っている矢張に対して不機嫌なのだから、矢張としてはとばっちりもいい所だ。 軽く息を吐き出して相手を窺ってみても、どうしようもない。本当に彼の関心は見事なまでに一人にしか向いていないのだから。 「しっかしよー。お前、そんなんじゃ成歩堂に告白ひとつ出来ねぇぞ?」 もうちょっと俺みたく余裕ってもんを持てよと、至極あっさりと告げてみれば、御剣の動きが止まった。静止画像を見ているようだと思っていると、ゆらりと彼が振り返る。 …………………メデューサであってももう少し可愛げがあるだろうという表情で。 筆舌尽くし難い凄まじさに矢張が顔を引き攣らせると、睨む眼光もそのままに御剣が口を開いた。 「何故そこで成歩堂が出てくる」 隠しているつもりだったのか、などとつっこんだらおそらく命はないだろう。そんな事を思いながら、あるいは自覚がないのかどちらだろうかと悩む。 「いや、ほら、あれだ。成歩堂相手でもこうだからよ、彼女出来たらもっと大変なんじゃねぇかなーっていうか、お前なら逆に相手のこと鬱陶しいって言い出しそうだな………」 一瞬、極一般的な女性と御剣を並べて、アプローチを掛けられている姿を想像したが、顔を顰めてそっぽを向いている姿しか浮かばなかった。ここまで鮮やかだといっそ清々しいほどだ。 自分からすれば羨ましい状況であっても、本人には災難程度の認識なのだろう。勿体無い事だ。 一人納得顔で頷いていると、そんな矢張には目もくれずに顔を逸らし、御剣はぼやくように小さく呟いた。 「………そんな訳はない」 むしろ逆だといわんばかりのニュアンスに、矢張が反応する。 御剣に顔を向け、好奇心に染まった眼差しのまま話の続きを強請った。案の定鬱陶しげな顔をされたが、そこは手慣れたもので、相談した方が事は上手くいくのだと、成歩堂を引き合いに出しながら告げてみれば思いの外あっさりと納得した。 つくづく、解りやすい人間だ。一方向に関してのみであるからこそ、逆に複雑にもなりやすいのが難点だけれど。 「成歩堂というわけではないが………思いを告げて、それに頷いてはくれても、言葉をくれない」 その一言に、矢張は危うく飲みかけていたビールを吹きかけた。…………彼は隠しているつもりだろうが、相手は確実に成歩堂だろう。むしろそれ以外の人間だというのであれば、御剣の成歩堂の扱いが異様だともいえる。 いつの間にか告白して、いつの間にか付き合う事になっていたらしい。知らない間には進展していたのかと呆気にとられてしまう。………もっとも、これを進展といってもいいのであれば、だが。 「………昔は、くれたのに、だ」 しゅんと、それこそ子犬のように項垂れた姿は、場所さえ選べば哀愁が漂っていて色男と称されるのだろう。残念ながら今いる居酒屋は矢張の好みで選ばれた場所なため、ただひたすらに浮いているけれど。 顔がいいのも考えもんだな、などとこの場にまったく無関係な事を思いながら、どう答えるべきかを考えるでもなく矢張はビールを呷った。 「ふーん……そいつの事はわかんねぇけどさ。成歩堂もそうだよな」 どうせ成歩堂の事だろうけど、と思いながらも敢えてそれはいわなかった。いくらなんでもこんな理由で命の危険に晒されたくはない。 御剣は怪訝そうな顔つきで矢張を見遣り、言葉の続きを待つように視線を固定した。睨みつけるような双眸は正直、あまり心臓に良くはない。 成歩堂はよくこれと二人で居るのが楽しいと本心で言えるものだと、呆れを含めた感嘆とともに今の会話の中心人物であり、現状を作り出してくれた厄介者を心の中で思った。 …………きっと彼には、諾という返事以外、考えつかなかったのだろう。 求めて求めて欲しがって。一緒に居られるだけで充分なのだと、そこまでギリギリの領域まで削ぎ落とされた祈りしか携えられなくなった彼に、拒む選択肢など初めからあるはずがない。 計算など皆無だったのだろうけれど、上手く追い詰めたものだと嘆息しそうになる。勿論、悪い意味で。 「あいつも、必要ならいくらだっていってくれるだろうけど、今は難しそうだろ」 二人のやりとりが脳裏に浮かぶようだと、味も解りづらくなったビールを喉に流し込む。そうして横目で、隣の男を見遣った。怪訝そうな眉が、自分の言葉を飲み込めていない事を教えてくれる。 ………思い続け捧げ続けた全てをあっさりと捨てられたのでは、同じ行為を同じ相手に差し出すのは、 状況も関係性も違うのだからと、過去における経験則など無視して要求するのだろう。その痛みも過酷さも顧みないで。 それは、無垢ではあるかも知れないが、純良とは違う。相手の痛みに気づかない愚鈍さと人の心への無知故の、浅慮だ。 「言えるならば言うべきだろう。思いが真実ならば、言わない理由がない」 「そりゃ無理だろ」 きょとんとして不可解なことを言うと矢張を見遣る御剣に、隠し事などない。本心からの言葉だ。………本当に、無邪気なまでの残酷性だ。 「何故だ」 深い溜め息とともに答えた矢張の言葉に、御剣は眉間の皺を色濃くしながら声音を低くした。苛立たしいというより、それによってショックを受ける事を拒否しているような、そんな怯えにも見て取れる。 もっとも、そう思えるのは、そんな風に彼を観察して包み込む、もう一人の幼馴染みの見解に左右されているのは否めないけれど。 「だって、あいつは優しいけどよ」 呟く声には、至極あっさりと答えを返す。一度言葉を切り、相手がきちんと聞いている事を確認した。そして、試すように……理解しているかを確認するように、続きを告げた。 「……………それ以上に臆病だぜ?」 同時に、返されたのは憤怒の顔とそれに見合った怒気と、底辺を彷徨う低い声音。 「貴様、矢張の分際で愚弄する気か」 言われた言葉には、欠片ほどの容赦もない熾烈な意志が混じっている。本気でこれを言うのだから、いい加減この男もどうしようもないと矢張ですら思う。 溜め息も出せない苛烈な意識の圧迫に顔を引き攣らせながら、取り合えずと両手を前に相手を落ち着かせるようなジェスチャーで場をなだめようとする。かなり無駄な気はしたが。 「いや、待て、落ち着け。馬鹿にしてんじゃなくて、事実なんだっつーに!いっとくけどな、成歩堂の事なら俺のが詳しいのよ!」 「………良し、解った、遺言くらいは聞いてやる。言え」 「目が笑ってねぇー!!!!!」 こんな賑やかなはずの店内の片隅で、何故これほどまでに物騒な会話を本気で交わさなくてはいけないのだろうか。 早く依頼の話でもなんでも片を付けて成歩堂は来ないものかと祈るが、未だそれは叶わないようだ。少なくとも、自分の携帯も御剣の携帯も鳴らないのだから。 冷や汗のせいで寒くも感じる状況など、成歩堂の法廷の話だけで十分だ。いっそ逃げてやろうかとも思うが、このまま彼を放置したならしたで後日厄介だし、何よりこの話を理解してもらわない事には、不要な悶着が彼らの間で起こる事は必須だ。 出来れば、今までずっと報われずにいた幼馴染みに、これ以上同じ思いも味わわせたくはない。 自分も人がいいと自画自賛しながら、ちらりと御剣を見遣れば、相変わらずの視線で睨まれた。 「さっさと言え」 ………その上、凄みのある音がその唇から落ちる。このまま何も言わなかったら確実にその腕が伸びてくる。彼に関しては、悪い意味以外、考えつかないのが困り者だ。 「だ、だからっ!あいつは優しいからすーぐ相手に傷つけられんだよ!その度に自分ひとりでどうにかしようって抱え込むから、治るまでその相手には臆病なんだよ!」 心当たりあるだろうがと叫んでみれば、ぴたりと御剣の動きが止まった。 一応、自覚はあるらしい。色々な意味で、彼は成歩堂に痛みを与え続けた人間だ。故意ではなく、悪意でもない。価値観の違いという言葉は便利だ。それだけで、全てが許されるようにすら思えるのだから。 ………それでも、人は傷つく。 傷は、隠しても見えなくても、痛むのだ。それでも責めたくないのだと飲み込む事を、やはり糾弾は出来ない。 それは少しばかり不様で愚かしくはあるけれど、優しさでもあるのだと、知っている。 傷を知っている分、柔軟な分、………あるいはもう先天性的に、成歩堂は人を信じ受け入れる事に長けているから。 自分とてそれに救われる面は多い。だからダメだなんて言う気はない。 ただ、痛まないように、傷つかないように、生きられればいいとは、思う。自分にはどうすればいいのかなんて、考えつきもしないけれど、ちょっとくらいは考えて、力の足しにしてやりたいのだ。 「あいつあんま泣かねぇし。後はふざけて笑わせて気分転換させてやるくらいしか、ねぇんじゃねぇか?」 難しい事など自分も知らない。だから、出来る事をしてみるだけだ。 それで彼が笑うなら、それでいい。自分もそれは楽しいと思うし、やはり気分がいいのだから。 矢張の言葉に御剣は顔を顰め、苦々しそうに唇を噛む。 「…………………私にもっとも不向きと思われるが」 至極当たり前の結論を随分と勿体ぶって告げるものだと呑気に御剣を眺めながら、矢張は自分自身を指差して、きょとんと答える。 「だから俺が居るんじゃん」 適材適所だと成歩堂が笑っていた、それはこういう事だろう。自分は成歩堂にも御剣にもなれない。が、御剣もまた、自分と同じにはなれないのだ。 けれどそれを未だ理解せず、全てを自分一人で賄いたい御剣は、不満げに唸り、眼光を鋭くした。 「やはり貴様から排除………」 「…………な、成歩堂に言いつけるぞ!!大体、いいのかよ!俺居なくなったら成歩堂のやつ、抱え込む量増えちまうんだぞ!」 また本気で言っているのだろう声音に咄嗟に叫ぶ。存外この言い分は彼の弱点を突けるかと口にしながら思ったが、より一層相手の視線を険しくする事しか出来なかった。 「貴様が居なくなれば、あるいは私に寄越すかも知れん」 「絶対に無理な事あっさり言うよな、お前」 おそらく心からの願いなのだろうが、不可能な事を願いすぎると、ついぽろりと言葉が落ちた。 ………再会した頃からずっと変わりなく今まで過ごしていたなら、それはあるいは与えられたかも知れない。自分というクッション材がなくとも互いが互いを包み、癒せたかも知れない。 けれどそれはただの可能性だ。今更いくら言い募ってもそれがあり得るはずがないと、自分にも解る。 御剣は、傷つきやすい上、傷に弱いのだ。 自分自身に与えられる痛みを乗り越える事が難しい人間に、成歩堂が自身の傷を晒すか否か、考えるまでもないだろうに。厄介な事に、成歩堂には痛みへの耐性があるから、尚更だ。 それでもこの男はそれが欲しいというのだろう。それを誠実というべきか愚直というべきか、自分には解らない。 真剣な彼の顔は、整っているだけに壮観だ。それだけを見たなら、惑わされる人間もいるのかも知れない。 もっとも、彼が求めてやまない存在は、外見には左右されなかったのだから、なんの意味もないけれど。 そんな事を考えていると、不意に視界が暗くなる。 御剣の腕が伸びてきているせいだと解った瞬間、盛大に後退した。椅子の軋む鈍い音と床と擦れる耳障りな音が混じって店内に谺した。 「いやいやいやいや!!!茶化してんじゃなくて!……だって、成歩堂が平気になるまで、お前待てそうにないじゃねぇか」 その腕が頭か顔面か首か、一体どこを掴む気だったのかは解らない。が、少なくともそれが到達したなら自分にとって嬉しくない結末がある事だけは、確かだ。 捲し立てた言葉は、思いの外彼の痛い所を突いたらしく、顔を顰めてその腕は止まった。噛み締めたような唇が蠢き、唸るような雰囲気で、口籠る音が漏れる。 「そんなことは………」 「あるね!今だってどーせあいつに強請って駄々捏ねて困らせてんだろ。あいつだって必死なのによ」 ここで追い風を掴まなくてはと、矢張は御剣の言葉が終わるより早くに、噛み付くように返答を差し出した。相手はその勢いに一瞬飲み込まれたのか、驚いたように瞠目している。 次いで、顔を顰めてそのまま逸らした。……………図星、という事だろうか。 「…………………」 言い訳を、彼はしない。自身の保身を潔しと思わないのは立派かも知れないけれど、それは単純に告げて理解されなかったら嫌だという、そんな意固地さに見える。 彼は複雑で……その実、呆れ果てるほど、単純なのだ。 それを理解してしまっている幼馴染みは、だからこそ彼の痛みを取り除こうと腕を伸ばしていて、それ故に自身の傷には気づかない愚鈍さがあるけれど。 彼らはそっくりで、その癖、真逆だ。空回りもすれ違いも人の倍はしているだろうに、それでも愛想が尽きるという事が無いのだから、いっそ見事なものだ。 それでも、無意識であれ無自覚であれ、相手の中に深く穿つ傷を与えてしまったのは、紛れもなく……御剣だ。そう思ったなら、つい、言葉がこぼれ落ちた。 「お前はさ、前科あるって、忘れんなよ?」 なにも考えずに漏らした言葉に、また絶対零度の視線が来るかと思えば…眼前には自嘲げな笑み。 「忘れた事など、ない。その上再犯だからな、私の場合は………」 その言葉に、正直、自覚があるのかと少しだけ驚いた。 相手の怯えや躊躇いの意味が解らなくとも、その事実が傷を負わせた事だけは、解っているのか。………本当に、不器用極まりない人間だ。 その事実に苦笑して、出来得る限り明るく、軽い話に聞こえるように努めて言葉を紡ぐ。 「それでもお前は戻ってきて、その上腕伸ばすってんだから、成歩堂だって折り合いつけるのに必死だろうぜ」 矢張の言葉に躊躇いの間を開けた後、ぽつりと沈んだ音が響く。 「……それはやはり、私に付き合うために感情を歪めていると……」 自信など欠片も内包していない、自虐を孕んだ音。 一体この男は幾重の防壁を張っているのか。少し呆れながら、その防壁1つ1つを壊さず溶かそうと心砕くお人好しを思い、やはり呆れた溜息が漏れた。 甘やかしてばかりだから、こんなままなのか。それともそれ以外の手段では、この男は受け入れられないのか。自分には到底判断が出来ない事だった。 「それ本人に言ったら泣き出すから止めろよな。お前の事好きだから、必死なんだろーが」 だから、自分の知る事実だけを口にする。それが一番、解りやすくていい。プラスでもマイナスでも、自分が解る事さえ口にすれば、少なくとも混乱はしないでくれるだろう。 それは、自分でさえ解る、事実なのだから。 提示された証言に、ただ御剣は不可解そうに矢張を見遣り、また奇妙な発言をしていると勝手に納得しそうな雰囲気を醸し出している。 ここまで言われても解らないなど、本当に有能な検事なのかと疑いたくなる。胡乱な目つきで見遣った先には、ひたすらにキョトンとした眼差し。先程の自嘲げな笑みとの差に、溜め息も出なかった。 「………何回も居なくなるよーなヤツだし、また居なくなるかも知れないし?今のままでももっと仲良くなっても、どっちにしろ痛いもんは変わらねぇだろ」 ぱっくり傷が開いてんだからよ、と御剣の胸元を指差して呆れたように言ってみれば、息を飲む音が聞こえる。………どこまでも鈍い男だ。 はっきりとした音で指摘されなければ、この男は精神的な談義にはとことん疎いらしい。もしかしたら、自分以上に。 そうした部分に特化している成歩堂には、一番厄介な人間だろう。言葉に怯え伸ばす腕に傷ついて、ただ捧げる思いを抱き締められる事を祈る健気さは、この手のタイプには通用しない。 「だから、臆病なんだよ。………あいつは情が深いから、いつだってすぐ傷つくくせに、凝りねぇし。そのくせ、一人でなんとかしようってしちまう。ったく、本当に俺様が居てやんなきゃどうしようもないね!」 胸を張って堂々と言い切ってみれば、底冷えのする視線で睨み据えられた。けれど今度のそれは、すぐに逸らされ、怯えるにはいたらなかったけれど。 それを見て、笑みが零れてしまう。不器用で、けれど誠実な男だ。大切な相手の事であれば、少しでも考えようと、しているのだろう。もっとも、意固地でもあるから、自分の言葉を100%信じているわけでもないのだろうけれど。 それでも、考えている。検証し、データーを照らし合わせ、その妥当性を算出している。その可能性の高さが、逸らされた視線、だろうか。 自分のこの言葉を、彼こそが言いたいのだろう。出来る事なら言ってもらいたいとも思うが、当面、言える事はなさそうだ。 だからきっと、この男にも自分は必要なのだ。こんな風に、成歩堂が伝えきれない傷を、彼に伝える人間として。 未だ現れない幼馴染みは、いつだって相手の事しか考えられない人だから。彼は伝えるとき、傷をオブラートに隠して、少しでも小さく見せてしまう。 ……………この鈍い相手には、それでは伝わりきらないと解っていても、それを許諾してしまうから。 二人とも仕方が無いくらい不器用で、どうしようもないほど相手の事ばかりだ。 見ていて飽きないと苦笑を隠すように生温くなったビールを呷ると、御剣の携帯が震え、自分の携帯も盛大に鳴り始める。 送信者は、件の男。 御剣が画面を見る眼差しの柔らかさだけで、充分知れる。 満足そうに頷いた後、少しだけ痛みを讃えた眼差しを見て。 自分の役目も、そう長く続かないといいなと、ほんの僅かに、祈った。 (出来る事ならずっと今のまま、なんて。願った事がバレたら本気で殺されかねねぇしな!) 遅れてやってきた彼には、苦笑と無邪気な笑みで、迎えよう。 少しでも少しでも、その傷が癒えますようにと、祈りをこめて。 一気に時間が流れて、すでに告白も済ませた模様(オイ) 一応一悶着はあったのだろうけど、まあ、うちの成歩堂も絆されたのでしょう。さぞかし盛大に切って捨てた後に(エ) 出来るだけこの頃の事は考えないようにしているのですよ。人を恨んだり憎んだりって、したくないし。そういう感情を人に向けるって、怖い事だし。 それでも考えてしまった時は、何よりも自分自身の断罪を望んじゃう。から。………表現の仕方を間違うと、御剣を受け入れる事=贖罪の意識故、になりかねない危険性があるわけです。違うんだけどね。 そして今回は矢張が大活躍!本当にうちの矢張はお兄ちゃんだね、成歩堂の。弟(成歩堂)が大切で仕方がなさそうだよ。 おかげで御剣にいつも寿命が縮まるような目つきで睨まれるけどね! しかたがない、矢張の特権(成歩堂に甘えられる、我が侭言われる)は御剣が欲しいものなんだから。ちょっとくらいは羨ましくて睨むくらい、許してあげてくれ。 そして途中から話題が成歩堂で固定している事に御剣は気づいてないですよ。矢張は解っているけど。どこまでも鈍感な男だ、御剣。 08.4.21 |
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