柴田亜美作品 逆転裁判 NARUTO 突発。 (1作品限り) オリジナル (シスターシリーズ) オリジナル enter |
相も変わらず弱肉強食 人知れずと…… 息苦しかった。 夢を見ていると、自分で解っていたのに目が覚めない。最悪の気分だった。 赤く視界が染まる。 白刃が舞い、確かな手応えが手のひらに残った。確実に屠られる敵という名の生き物たち。 嫌な夢だ。 昔の記憶など思い出したところで仕方がない。 殺した記憶。殺された記憶。憤り。嘆き。どれほどの感情でもってあの頃自分は生きていただろうか。 まるで一生分の激情を使い果たしたかのようにあらゆる感情に支配された。 懐かしい……などという言葉では括れない、汚濁の過去。 恥じる気はないが見せびらかす気もない。あの頃があるからこそ今の自分がいるのだと知っているからといって、さした意味もない。 ああまた、何かを斬りつけた。 なまじ、自分には才覚があった。刀を振るう勘の良さ。それをこなすに足る運動神経。そして、戦陣を理解し、それを打破することの出来る頭脳。 ………何か一つ欠けていたなら結果は変わっていたかもしれないのに、嘆けるその才覚こそが、自分に与えられた唯一の武器だった。 息が乱れる。………疲れからではない。 解っているさと薄ら笑う。 鯉口を切った瞬間から、背負う覚悟くらいはしているのだと、笑う。 血飛沫を受ける刃先にまとわりつく赤い怨念。実体のない何かが刃といわず峰といわず這いずり回る感覚。 解っているさと、笑う。まるで泣きそうな面持ちで。 守りたいのだ。自分もまた。 それらのために血を浴びようと己の命を賭そうと構わない。 揺るがない信念の元、互いに命を賭けている。そうだろう? だから背負う。散ってしまった敵の血であろうと、忘れることなく背負い続ける。 生きたかったことは知っている。守りたいために戦ったことだって。 それでも互いに守るものが違った。あるいはもっと別の形であれば友となれるかもしれなくとも、こればかりはどうしようもない。 時代はうねり、交わりを許さない。そのための突破口となる自分達には、悲しみと嘆きと痛みと傷を。 この先に生まれる新たなる命たちのために、汚濁の全ては背負ってみせよう。 生きる気なんてなかった。 生き残れるなんて思いもしなかった。 足掻くだけ足掻いて、そうして終結したなら、ぷつりと事切れるとでも思っていたのに。 現実はそんな甘やかしはしなかった。世界は冷酷で無慈悲だ。 今もこの腕を振るえと、せがんでくる。 死ぬことは出来ないよと、笑う。 時代は変わった。それに適合し、それでもなおその才覚を花開けと、笑う。 解っているさと自分は笑った。 敵にも味方にも畏れられ、殺した数すら数えられない自分が、そんな楽に死ねるわけもない。 守るために振るった刃は、散ってしまった。 それなら、散ることのない刃を振れるだろうか。 血飛沫など知らない命たちのため、のろのろとまた生きてみようか。 暗闇の夢の中、息は相変わらず苦しいけれど満ち足りてくる。もっとも、それでも足りることがないけれど。 奪った数だけ慈しみを。そんな聖人じみたことは考えない。 自分の守れる範囲などたかが知れているのだ。だから決して欲張ってはいけない。欲張れないのだ。 だからもう 無宿者でいい。そうして、ふらふらと浮き草のように生きて。 目の前にいる誰かを守りながら、またどこかにさすらっていけばいい。 自分には抱えきれない。これ以上、抱えられる度量はないから。 だからもう……… 「…………いつの夢だ、こりゃ……」 ぼんやりと天井を見上げながら呟く。ずいぶん懐かしい夢だった。定住することを恐れていた、ガキの時分だ。………もっとも年齢的にいうならさした差はないのだが。 「銀さん、やっと起きたんですか!もう昼ですよ?!」 「あ〜……あんまでかい声出すな。頭に響く」 別段本当に響いているわけではないけれどそう呟く。弱ったように俯くことも忘れずに。 「あんたまた二日酔いですか?!無茶な飲み方はよせっていってるじゃないですか!」 「だーかーらー大声出すなっての」 「銀ちゃん、二日酔いにはみそ汁ネ!だしはわかめヨ」 ソファーに再び寝そべった銀時に向かい愛らしい声が降り掛かる。どこかおもちゃで遊ぶような響きがあるのは彼女自身、遊び感覚で料理したせいだろう。掻き混ぜている鍋からは溢れ出したわかめがあと少しで火にあぶられそうだった。 ………きっと嫌だといっても食べなきゃならねぇんだろうな、とかげっそりとした思考で考えてみればすかさず聞き慣れた声が響いた。 「オイオイー!わかめはだしじゃなくて具だろうが!こっち、昆布がだしだっていっただろ!」 「え、こっちが具?」 「だしだっての!ああもう、ほら、こう作るんだって」 「お前…レジの打ち方も覚えられなかったくせに、生活知識だけは人一倍だな」 自分が何か言う前にきちんとみそ汁の作り方を伝授しはじめた新八の背中にぼそりと言ってみるが、無視をされてしまった。まあ情けない過去ではあるし、だんまりも決め込むかと浮かぶ笑みを腕の中に隠す。 頭痛などないのだからいくらでも起き上がれるが、夢見が悪かった。 だるいとでもいってしばらくこうしていようと思いながら、漂いはじめたみそ汁の香りにほっと息を吐く。 抱えられないからと傍に置く気はなかったのに、どうしてこうなったのか。 もっともそんなことを言い出したらちゃっかり家を間借して居座っていること自体がおかしいのだが。 あの頃。………そろそろ終わりでもいいかな、なんて思っていた頃。年寄りが甲斐甲斐しく墓参りになんぞ来ていたから、興味が湧いた。情の深い人間の言葉でも聞けば結構楽に逝けるかな、なんて物騒なことを考えて適当に声をかければ、変な解答が与えられて。 ああ、もうちょっと生きてみようか、なんて……思ってしまった。 馬鹿な人間はまだ多くて、それ故に守りたいものもやっぱり減らなくて。居座ってしまえばまた抱え込むものが増えていく感覚。息苦しくて、はじめの頃はよく見た夢だ。 また見るようになったのは、この二人を抱え込んだと自覚した頃からか。もっとも、それをいえば攘夷派がしきりに勧誘にくるようになったせいな気もするが。 「あー…平和が欲しいねぇ」 ぼそりと腕の中で呟く。なんとなく、頭痛が始まった気がした。 二日酔いでもないのに患いたくはないと、大きく息を吸い込んで鬱屈としたものを追いやってみれば、かちゃりと小さな音がすぐ傍で響いた。 「ん?」 「ほら、気分悪くてもちょっとは胃に入れて下さいよ。あとで薬持ってきますから」 少し心配そうにそういった新八は、お盆に乗せた朝食だったのだろう飯とおかずを差し出した。先ほど悪魔でも生まれるかと思った鍋から再生したらしいわかめのみそ汁は神楽が持ってきた。 あまり食欲はなかったがみそ汁を受け取って一口飲む。………少し塩辛いのは沸騰させてしまったせいか。 「どう?銀ちゃん」 「しょっぺぇ〜。お前、甘党の銀さんにこんなしょっぱいもの出すの?」 ワクワクと目を輝かせている神楽を一瞥し、うまいといってやればいいのだろうが、そんな柄でもないのでずずっと飲みながらそういった。 その途端に神楽はいつも肌身離さず持っている傘をふりかざし、弾丸をまき散らした。 「乙女の手料理侮辱するアルか!天誅アル!」 「って、アブねぇ!お前本当にアブねぇからやめろって!」 「は〜いはいはい、そろそろ終わりにしましょうね。神楽ちゃん、ご飯食べるからそれしまって」 「大盛りにするヨロシ」 「あっさり飯につられんの?!」 「銀さんは黙っていて下さい。これ以上もの壊されたら困りますから」 「いやまあ……そうだけどよ」 すっかり扱い方を心得ている新八を眺めながら、順応力の高いやつとこっそり呟く。もっともそうでなければ、自分のような奴の元で働きたいなど言い出しはしないだろうが。 自分一人では広かった部屋も今は窮屈なくらいだ。馴染んでいる彼らの気配が時折自分を苛みはするが、それと同じく、救うのもまたこの気配だ。 厄介なものをまた抱えたかなと飯を飲み込みながら考える。 それでももう、今更手放せるわけがない。 またもうしばらく長生きしなきゃならねぇな、と。 しょっぱいみそ汁を啜りながら考えた。 昔夢見た子供たちの笑顔を遠く眺めながら。 長編の序章っぽく。 銀魂です。見ての通り私は銀さん大好き。 万事屋大好きです。まあそれでもいつだか日記で言った通りに土銀なんですけどね(死) この話もそうです。次回はヅラが出てきますわ。 残念ながらエリザベスは出てきません。 相変わらず私が書くとこんな感じになるのだな、と思い知らされますな。 思っていたけどね。うちの銀さんあんま命というものに重きを置いてないから。 でも今は生きたいと思っているのよ?これでも。 命をかけていつ死のうとも構わないと生きていた人間が、守りたいと思うものが出来たから生きたいと思うようになったのは、弱さじゃないと思うのですよ。 05.1.29 |
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