ジュニアの気配が、不意に硬質化した。
 同時に、マナもまたその柔和な眼差しを鋭く細め、右後方を睨んだ。
 「……………マナ、立って」
 小さな呟きとともに、ジュニアはマナの右手をとった。俊敏な動作で立ち上がったマナは、後方への警戒を解かないまま、一歩前に足を出す。
 「いますね。あっち………まだ、距離はありそうですが」
 視線だけで目標を定め、小さく囁き合う。まだ、AKUMAは二人に気付いていないらしく、その歩みはそぞろで周囲を眺めているような呑気なものだった。
 AKUMAは視認したモノを追いはするが、それ以上の鋭敏さはないらしく、上手く気配さえ殺せれば躱す事は出来る。
 ただ、それは相当熟練でなければ難しく、今のところマナには出来る事ではなかったけれど。
 ゆっくりと、音を立てずに洞窟の壁に寄り添いながら、二人はソロソロと前に進む。出来るだけ、体力は温存しなくてはいけない。段々とAKUMAの出現する距離は短くなって、躱す為に駆ける距離は長くなった。
 この世界は空腹などの生理現象は感じない癖に、傷も痛みも、疲れや怠さも、現実同様身体に残るのだ。
 それはそのまま、休憩の必要性と、回復の難しさを示している。
 疲労は度重なれば蓄積していく。この世界に睡眠という回復の為の特効薬はなく、食料摂取というエネルギー補給もない。永遠に、同じまま、削り取られ、回復させ、ゆっくりと少なくなっていく体力ゲージを眺めなくてはいけない。
 早くイノセンスを持つエクソシストが現れればいいが、それも期待する事は難しい。ジュニアは忌々しそうに前方を睨みながらも、マナが不安を思わないように、その声だけは軽口のように明るく染めた。
 「あいつ、出てきた場所が悪いさ。さっきのとこから、結局裏手に来ちったし」
 躱すにしても、マナの嫌がるあの崖を避けていくのが難しい。出来ないわけではないけれど、かなり体力を消耗する事を覚悟しなくてはいけないのだ。
 ジュニアは、まだいい。まだ余裕もあるし、いざとなればあの裂け目から崖下に行ける。
 けれどマナは無理だ。走るにしても限度がある。彼の体力を考えるなら、ギリギリの駆け引きになるだろう。
 「さっき………あの、洞窟の割れ目の?」
 前を行くジュニアの、神経全てが背後に向けられている事が解る。
 ………きっと、本当に危険な状態なのだろう。ジュニアではなく、マナこそが。こんな時、体力のない幼い身体が恨めしかった。せめてエクソシストとして青年と出会った頃なら、もっとずっと動けたのに。
 あのAKUMAとだって、戦えたというのに。
 今のマナは、足手纏いになるだけで、なんに役にも立てなかった。その歯痒さが、ついジュニアと繋ぐ手のひらに力を込める事で知られてしまう。
 ちらりと振り返ったジュニアが、苦笑している。
 ………まるで、何も心配しないでいいと、そう教えるような優しい瞳。不器用な青年が精一杯差し出してくれた優しさによく似た、あたたかな眼差しだ。
 「あっちの分れ道がそう。道なりに進んで、3つ目の横道を進むとさっき見た割れ目の入り口になるんさ」
 そういいながら、けれどジュニアの足先はそちらに進みはしなかった。引かれる腕も、その方向から離すように引き寄せられる。
 ……………きっと、嫌がったから、だ。大きくなった姿を、身勝手な理由で拒んで行きたくないと願った。それをきちんと彼は汲み取って、こんなギリギリの駆け引きの中、最優先で尊重してくれる。
 優しい子だと、思う。色々我が侭で突拍子もなくて、困惑するぐらい、知らないモノへの知識欲が強い子だけれど。
 それでもこの子は、決めた事を履行する事に、躊躇わない。そして…ジュニアはマナを守ろうと、決めてくれたのだ、きっと。
 こんな、足手纏いでしかない、自分を。
 「…………じゃあ、今回は初挑戦の二手に分かれるの、やってみましょうか」
 噛み締めそうな唇を耐えて、マナは笑った。ジュニアが怪しまない程度の、したたかさを秘めて。
 それを顧みたジュニアの目が、きょとんと瞬いた。………AKUMAは、まだ自分達には気付いていない。僅かに逸れた道なりに、そっと身体を隠しての作戦会議だ。
 「へ?」
 間抜けな声に、マナは笑んだ。取り決めはもう済ませた。後は、実際に実行して有効性を確認するだけだ。
 もっとも、失敗は許されない、生死を賭けた実験になってしまうけれど。
 「僕、あちら側に行きます。ジュニアは後ろ。3つ目の横道でいいんですよね?ちゃんと目印は付けますけど」
 呑気な調子に、少しだけの緊張。………きちんとジュニアがそれを勘違いして受け止めてくれればいい。
 少しだけ思案したジュニアは、けれどほとんど即決した。当然だ。AKUMAがいつこちらに来るか解らない状況で、そう長考は出来ない。
 解っていて、提示した。大人の汚さだと思いつつ、普段のイカサマ程ひどい手ではないとジュニアに胸中で謝罪する。
 「うーん、まあ、試した方がいきなり本番よりいいけど。マナ、絶対無理しちゃ駄目だよ?」
 むうと顔を顰めながらも、ジュニアは頷いた。
 「同じ言葉、返しますよ。甘く見てからかったりしちゃ駄目ですからね?」
 「流石にしないさ、そんな真似。………すぐ、迎えに行くから。絶対に」
 茶化すように注意するマナに笑んで、ジュニアはマナの腕をしっかりと握り締めた。
 手を離すのが、寂しかった。もっとずっと自分が強く逞しければ、この腕を離して別々の逃げ道に行かなくても、守れるのに。
 守るという事はひどく難しい事だ。あたたかなぬくもりをしっかりと手のひらに記録して、ジュニアは真っ直ぐにマナを見つめる。
 離れる事を寂しがる、けれど真剣な、眼差し。
 それに微笑んで、マナはジュニアの頬を軽く叩くように両手で包み、エールを送った。
 「はい、待っています。気をつけて、ジュニア」
 「マナもさ!」
 その声を契機に、互いに背を向け、駆け出した。
 AKUMAは大分近づいた、ゆったりとした足取りは、決して狩人などとはいえない呑気さだ。
 分れ道の先、僅かに進んだ後に、少年は歩みを止めた。あまり早くに足を止めては、きっとジュニアに気付かれてしまう。それではジュニアがこちらに来てしまい、少年がAKUMAと接触するより先に、彼が接触してしまう危険があった。
 慎重に、距離を測った。ジュニア程気配を察知する事に長けていない少年は、それでも背後を気にしながらゆっくりと距離を取り、足を止めた。
 呼吸を整える。この程度の距離でも弾み始める息が煩わしかった。
 「………さて、AKUMAは、気付いてくれますかね」
 とりあえず手近な場所にある石を数個拾った。距離は出来るだけとったまま、AKUMAを誘導しなくてはいけない。
 分れ道の入り口、AKUMAの足先が、見えた。同時に、少年は手にした石を力の限り投げつける。
 石はまるで見当違いの天井に当たり、AKUMAの足元にも届かずに転がり止まった。舌打ちをして、もう一度投げようとモーションをとると、AKUMAの顔が覗いた。
 ……………その目が、こちらを認識していた。
 身体が揺れるようにして、回転する。AKUMAは道をそのまま進む事を止め、少年のいる横道に入り込んできた。
 「よし…………!こっちですよ、君の相手は、僕です」
 会心の笑みを浮かべ、少年は駆け出した。
 ここでは駄目だ。もう少し先、時間軸が未来へと変わる場所まで。
 そこまで、このAKUMAを引き連れ逃げるのだ。そう長くはない、まさに命がけの逃走経路を、少年はただ一人駆け出した。

 AKUMAの誘導は上手くいった。あとはジュニアの教えてくれたこの道の奥、未来の時間軸となった場所まで行ければ、少年に勝機はある。
 左腕と左目、その二つに変化があればそこが反撃の岐路だ。広くもない洞窟内を必死に駆け抜きながら、少年は己の左腕に意識を集中させる。
 いつ発動するか、イノセンスが反応するか、焦る思いを押さえ込み、待っていた。
 そうして、辿り着いてしまった、ジュニアの言っていた洞窟の亀裂によって分たれた、今までの中では一番広く開けた空間。
 先には崖のように割れ目があるにしても、戦う広さは十分ある。流石にその高さを確認するような余裕はないが、対岸との距離を考えれば、決して崖の下までの距離は短くはないだろう。
 一番いいのは、今ここで、あのAKUMAを破壊する事だ。が、それが出来ないのであれば、この崖下にAKUMAを落とす。そうすれば、きっとAKUMAとの距離は一定以上となり、消えるだろう。
 考え、少年は左腕に集中する。たった今自身が出てきた通路の先、AKUMAが悠々と顔を覗かせて現れた。
 少年を視認したAKUMAは楽しげに唇をあげた。愉悦を思わせる、笑みだ。
 それを睨み据え、少年は上手く発動しない左腕に、舌打ちする。
 ………どうやらここは、未来の時間軸ではあるが、そう先の未来ではないらしい。おそらく、この感覚で言うならば、師匠に拾われ、イノセンスの発動の仕方を仕込まれた頃だ。
 まだ上手く自分の意志でイノセンスを操れなかった。あの歯痒さを、また味わう事になるとは思いもしなかった。
 これではきっと、破壊には至らない。上手くいっても傷を負わせる程度だろう。それでも充分ではあるが、どこまでこの身体で体力が持つか、心許なかった。
 それならば、せめてこのAKUMAを遠ざけるくらいは、しなくては。ジュニアに近づかないように、無事に過去に還せるように。
 彼が自分の行動に気付き、こちらにやって来るより先に、全てを終わらせなくてはいけない。
 そうして対峙した先のAKUMAは、楽しげだった。………そのAKUMAに繋がれた魂の嘆きとは裏腹に。
 けれど、少年はその魂に胸中で首を捻る。それは幼い子供に見える。レベル2の魂は状態が悪化していて、ミイラのように個別の認識が難しくなるけれど、それでも個々の違いはある。
 けれど、この魂は、そんな細かい事を言わなくても、違う。明らかに、その魂の持つ身体の大きさが幼く小さいのだ。
 見覚えのない、魂だった。このレベル2自体、見覚えは無かったけれど、記憶違いではなく、やはり少年は戦っていない筈だ。
 あの時にいたレベル2とは明らかに外見上の特徴は違う。そして、魂もまた、違う。
 ……………それならば何故、ここに自分がいるのか。またひとつ、疑問が増えてしまった。
 謎だらけの世界の、謎だらけの自分。どこか現実世界とリンクする、世界からの隔絶の空虚さ。
 それを飲み込み、少年は痙攣するようにして歪に発動をしている己の左腕を、目の前のAKUMAに向けた。
 「哀れなAKUMAに、魂の救済を…………!」
 出来得る限りの祈りを込めて、呟いた。

 おかしいと、ジュニアは周囲の気配を手繰った。
 追いかけてくる筈のAKUMAの、薄気味悪い泥付いた気配がどこにも感じない。
 地面に耳をつけて音を探っても、何もない。もっとも、AKUMAが大人しく地面を歩いてくれるのかは解らないけれど。
 …………これはもしかしたら、マナにしてやられたかもしれない。
 彼が殊勝に待つようなたまだとは、確かに思えないけれど。不意打ちで無謀な真似だけは止めて欲しい。
 「ったく、世話焼けるし………!」
 呟き、ジュニアは足の向きを転換させ、脳裏の地図を辿った。この先の、坂道を辿れば、あの崖の割れ目の対岸に着く。そちらからまた、対岸に向かって駆けるのがいい。
 もしも上手くマナがAKUMAを巻けているとしたら、自分が近づく事でAKUMAのリミットが増えてしまう。
 そうしたなら、マナは永遠に追われ続けてしまう事になる。彼は決して体力があるとは言えないのだ。いずれは速度が落ちて、動けなくなるに決っている。
 それは、避けなくてはいけない。一度対岸から様子が窺えれば一番いいが、それはそのまま、マナがAKUMAに捕まっているシーンを観る事になってしまう。
 ………出来る事ならそんな不吉なもの、見ないままに、上手く出来たと笑うマナの顔が見たかった。
 考え、己の考えの浅さ故に彼を失う事もあるのだと、思い知る。守ろうと思っていたのに、手を離してはいけなかった。
 大丈夫と笑う彼の腕をこそ、掴まなくてはいけなかったのに。
 駆け出した足は、今までの比ではない程、地面を蹴る速度が上がった。

 心臓が痛かった。こんなにも真剣に走った事は、いつ振りだろうか。それとも初めてだったか。
 己の命を守る為に駆ける事はあっても、誰かを求めて走る事は無かった。こんなにも己の足が遅いと感じる事も、無かった。
 早く早く早く………縺れる程に速度を増す足先は、きっと今までの人生の中で最高速度だ。
 坂道は、若干急だ。当然だろう、この洞窟の上の部分を駆け抜ける為の横道だ。
 この洞窟は、まるで迷路と言いたいけれど、その実、規則がある。必ず初めの場所に戻れるような、そんな単純構造だ。
 だからこそ、予測もしやすい。隣の対岸はあまり歩いた事はないけれど、歩いた限りでは、こちらの岸の鏡写しだ。それもまた、幼稚な発想だと思った。
 どこか、この洞窟は子供が描いた落書きじみている。あるいは、左右対称の阿弥陀だろうか。後光が射すのと同じように、円形に放物線を描く阿弥陀籤。その梯子が左右に同じように同じだけ、加えられたこの洞窟。
 始まりの場所…………あの亀裂の走った対象線の、岸。あそこがきっと、全ての出発点な筈だ。自分が目を覚ましたのもまた、あそこだったのだから。
 考え、それに違和感を持った。
 …………マナは、違った。自分が逃げる先に突然現れた、眠るように横たわっていた子供。
 自分の予測はきっと、そう間違ってはいない。けれど、確信があるわけでもない。それならば、マナの出現は例外か、偶然か。………解らない、けれど。
 今はそんな事にかかずらう暇すら、惜しい。考える事は生まれ持った気質に沿った、自分の仕事の範疇だ。それでも、それすら鬱陶しい程、今はたった一つだけが脳裏をざわめかした。
 マナが、いない。失うかもしれない。解らないけれど、どうなっているのか、知りはしないけれど。自分の勘も予測も、何一つ合っていなければいいと、祈るように思った。
 そんな中、変化は徐々に現れた。
 少しずつ、視界が高くなる。坂道を辿る足が、視認する限り大きくなっていく。徐々に、もう目測で23cmは越えたが、それでもなお、変化する。
 どうやらこの辺りの時間軸はまた違うらしい。あるいは、この岸の中が、時間軸が狂っているのか。洞窟の中を歩いていても一度も狂った時間軸には出会さない事を考えれば、そちらの蓋然性の方が高く思われた。
 もしかしたら今までで一番高い位置まで、身長が伸びたかも知れない。おかげで、走る速度は幼い身体に比べて格段に速かった。
 転がるように一気に駆け下りた、坂道。長い四肢は幾分邪魔で、感覚を調整するのが骨だった。転ばなかったのは運がよかったに過ぎないと、自分でも思う。
 道が終わり、平面の岸が見える。やっと、辿り着いた。もしもその対岸にマナがいるなら、こちらの岸にどうやって渡そうか。
 あるいは、崖の状態を見て、そこに下ろした方が安全か。持っている装備など当てには出来ない。そもそも、身に纏うもの以外に、今まで持ち合わせたものなど無かった。
 唯一の例外の守り石は、こんな時はなんの役にも立たない。
 舌打ちしたい思いで、こんなに高くなった身長でも纏っている赤いマフラーを翻し、ジュニアは岸に駆け込んだ。

 「マナ……………!」
 岸に足を踏み込んだと同時に、叫んでいた。
 眼前の光景に愕然とする。フードを被った灰色のパーカーの少年は、きっとマナだ。赤くその右腕が染まっているのが、ここからでも解った。その身体が、AKUMAに殴られて中空を舞った。
 それでも彼は身体を捻ってどうにか着地をした。が、場所が悪い。崖ギリギリの場所に着地した足先は、その重みに耐えられなかった地面に飲み込まれた。…………崖が崩れたのだ。
 一瞬、マナが振り返った気がした。見えたのは真っ白な肌と赤く染まった左の頬。怪我を負っているのは明らかだ。
 ぞっとして、駆けた。亀裂の走ったこの岸の端、立ち尽くしても意味はない。どうしたらいいかと、走る最中に必死に頭を回転させた。
 調度、崖の一部の突起が邪魔で、ジュニアの立つ位置からはマナが隠されてしまう。ヘタに大きな身体になったせいで、慣れない距離感に上手く動けない。
 覗いた崖は、意外に深い。もしもあのまま彼が気を失っていて、受け身も取れなかったなら、危険な高さだった。
 それを見て取り、覚悟を決める。………この身体は、子供の身体よりは融通が利きそうだ。どこまでこの姿でいられるかは解らないから慎重に、けれど出来る限り急いで、ジュニアはマナの落ちた崖の下目掛けて、地面を蹴った。
 ちらりと見遣った視線の先、AKUMAはどこか笑うように唇を歪め、そうして段々と掠れ………消えていく。
 マナとジュニアの距離が、AKUMAの接近距離から一定量離れたのだろう。目算でそれを計算し、記録する。
 その最中、段々と手足の長さが変化する。やはりこの岸に接近した部分は時間軸が狂う場所らしい。
 どんどんと腕の長さが短くなっていく。また子供に巻き戻っているらしい。
 今度はどれくらいで止まってくれるか。…………あまりに幼いと、動く事が難しくなる。
 マナを見つけたら、怪我を見て、平気そうなら、今までと同じ、上の道に戻らなくてはいけない。あの洞窟内が、一番時間軸が安定していて逃げる為の計算がしやすい。
 けれど、そこに逃げ込むより先に、まずは、マナの事を叱らないと。無茶な戦い方だって、彼の世界でも怒られたと言っていた。これでは当然だとジュニアも思う。
 守る為に、平気で危険に向かうのだ。彼を大切に思う人達ならば、そんな無謀な真似に心傷まぬ筈がない。現に、出会ったばかりの自分ですら、こんなにも心臓が痛い。
 傷に敏感な癖に、自分自身には無頓着なマナ。もっと自分を愛してあげればいいのに。
 …………幸せでした、なんて。過去形で終わらせないで。
 幸せですと、笑んで。そうして、もっと幸せでいるのだと、望んでくれればいいのに。
 崖の下、辿り着いて立ち上がれば、視線の高さはいつもよりも若干低い。………今度は数歳年下になったらしい。
 顔を顰めて、マナが落ちた筈の場所へと駆けた。短い足は、それだけ遅い気がしてもどかしかった。

 早く早く、その姿を見せて。
 バツが悪そうに笑って、平気ですと、囁いて。

 

 あなたが笑ってくれるなら、きっとどんな不安もなくなるから。

 








   


 ジュニア必死!というか、多分この連載内で一番カッコいいよ、ジュニア…………!
 いや、約8年後にはあんなヘタレさんになるのですが!(オイ)

 阿弥陀籤は元は阿弥陀様の後光を模して作られたそうで。なので、この洞窟はそのイメージ。円形に広がる迷宮。
 なのでジュニアはAKUMAの追いかける方向とかの予測をつけられます。でなきゃ流石に二日も一人で生き延びられない(笑)
 そしてそのカラクリが解っても、マナは逃げ切れませんよ。脳内で地図をちゃんと構築出来るなら、方向音痴になんかならないんですからね…………!←身に覚えがあるらしい。

10.12.12